[炭素税]

 このような動きのなかで環境税論議に具体的なテーマを与えてきたのは炭素税である。オランダ及び北欧3国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)は炭素税を既に実施しており、スイスも94年炭素税の導入を決定した。特に欧州連合は石油、石炭、天然ガス等の化石燃料に対し炭素組成に応じてその全域で課税する共通炭素税(Carbon/Energy Tax)構想をもっていた。(以下、日経朝刊92年5月14日号より引用)EC委員会は13日フランスのストラスブールで開いた委員長、副委員長、委員の会議で、委員会案を最終決定した。まず1993年に石油の場合で1バレル当たり3jのCO2税を導入、その後年毎に1jずつ増やして2000年に10jとする。ただ、EC産業の国際競争力に留意し、米国や日本など他の先進国が同様の税を導入した時点で効力が生じるようにしている。EC委員会はこの案を閣僚理事会(エネルギー・環境相)に提出、承認を求める。

(以下、94年9月7日掲載、立命館大学教授 柴田弘文氏による日経「経済教室」より引用)

 炭素税が課されると二酸化炭素発生量の多い燃料ほど高価になるから、例えば石炭のような炭素含有量の多い燃料の利用は含有量の少ない燃料、例えば天然ガスに切り替えられたり、高価になった化石燃料そのものの消費量が削減されたりする。さらに、化石燃料をより効率的に使う技術革新を促進させる。石油危機の際、石油価格の高騰が燃料効率を飛躍的に上昇させたことは人々の記憶に新しい。炭素税のもつこのような効果が地球温暖化対策の有力な手段として着目されている。

 さらに、地球温暖化防止にある程度効果を上げうる税率によって炭素税を課すと莫大な歳入を生み出すことが判明してきた。日本の場合でも、もしEUの2000年における原油1バレル当たり10jの税率を適用したとすれば、一橋大学の石弘光教授の報告論文では92年度の税収は3.6兆から3.8兆円にのぼり、同年度の国税収入の約6%になると推定されている。導入されればこの税は、所得税、法人税、消費税に次いで4番目の財源になる。

 さらに一歩進めて、環境税は環境に有害な消費・生産行動を効率的に抑制する第一の配当と、その税収を経済活動に有害な影響を与えている既存の税、例えば働く動機を鈍らせている累進所得税あるいは社会保障税の減税に充てれば経済効率を上昇させるという第二の配当を生むという二重配当(ダブルディビデンド)論に道を拓いた。

 環境税が現実的な政治的選択となり、ダブルディビデンド論が環境税の一般的支持を押し上げるとともに、学術的論議は楽観論者がもくろんだ二つの目的の同時達成が果たして可能か、それにはどうするかを検討する段階に高まってきている。

(日経「経済教室」よりの引用おわり)


Initially updated:January 18, 1998.