[環境消費税のしくみ]

 環境消費税(Environmental Consumption Tax = Virgin Material Consumption Tax)は付加価値税の計算構造を活かしながら、これに再生材割合に応じた税率縮減の方式を組み込んだ一種の一般消費税という外観をもちます。経済活動から、支払利子、利益、支払賃金という正のリターンである付加価値が産み出されてきましたが、同時に環境汚染という負のリターンが産み出されてきていることも見逃せません。環境消費税はこの負のリターンをゼロにするよう最終需要者に求める税制であるといえます。しかし、この負のリターンを直接測定する代わりに、付加価値と再生材割合を基準として負のリターンの評価に代替するという構造をもっています。したがって、厳密には、付加価値税とはしくみがよく似ていますが、付加価値そのものを課税対象としているわけではないという違いがあります。

 付加価値税では、売上と仕入の差を付加価値とし、これに税率を掛けて納税額を決定します。付加価値税の課される売上・仕入は、それぞれ課税売上・課税仕入と呼ばれます。課税仕入と税率の積を累計すると「仕入税額」(仕入代価と共に仕入先に支払った付加価値税額の合計額)に等しくなります。したがって、付加価値税の納付税額は、課税売上と税率の積から仕入税額を控除した残額と言換えることができます。これを付加価値税の算定式と呼びましょう。事業者は、売値と税率の積を付加価値税として売り先から預かり、仕入税額を控除した残りを税務署に納めます。実際、この算定式は消費税、環境消費税の両方にあてはまります。

 さて、課税売上に乗じる税率は、消費税では定率であるのに対し、環境消費税では、事業者により異なる「適用税率」(初用材割合と定率の環境消費税率との積)とされます。ここに環境消費税の第一の要点があります。
 いま、「基準税額」を課税仕入と環境消費税率の積の合計額とします。このとき、仕入税額が基準税額に占める割合を「初用材割合」と呼ぶことにしましょう。このように、税額の比を用いることにすれば、種々の再生材と初用材が投入され産出される製品についても、計測単位の問題に煩わされず、統一的に初用材割合を算定することが可能となります。ここで、算定式を改めて記すと、[課税売上×適用税率-仕入税額]となります。適用税率が低いほど、売り先への請求額は少なくて済むことが分かります。また、算定式を変形すると、[(課税売上-課税仕入)×初用材割合×環境消費税率]が事後的に導かれます。この式は環境消費税が、初用材を投入することによって産み出された付加価値部分のみを対象として、環境消費税率で課税する税制であることを示しています。

 第二の要点は、環境消費税における仕入税額が、課税仕入のうち売上原価に対応する部分の環境消費税額に限られる点にあります。これは、企業の消費活動に着目し、法人にも環境消費税の負担を求める方式です。接待交際費等の販売費や管理費は、その企業限りで消費され、その産み出す商品の価値に移転しないという考えも成立つからです。この方式により、最終消費者=環境消費税の負担者となる企業が賢明な消費選択を行い、再生材マーケットを強力に牽引することも期待できます。

 第三の要点は、製品の初用材割合の算定にあたり、生産要素である労働の初用材割合をゼロとみなすことにあります。サービス業のようなモノよりはヒトの労働を多く投入する業種では、より少ない物的資源を基盤としてより大きな付加価値を産み出し、雇用を創出していることになります。持続型経済にとってこれは望ましいことですが、環境消費税はこれを後押しします。

 環境消費税には他の付加価値税と同じように国境税調整が行われ、輸入品は通関時に課税、輸出品にかかる環境消費税は還付されるので、国際競争力に影響を与えないという特徴をもちます。炭素税導入反対の論拠として国際競争力への悪影響があげられますが、環境消費税にはあてはまりません。

 また、環境消費税は輸入品に関して新たな関税障壁を設けるものでなく、輸入品の国内における競争条件を初用材割合を異にする国産製品間と同等にする効果をもつものです。したがって、環境消費税が貿易障壁であるという非難に対しては、WTO設立協定の付属書1aの多角的貿易協定に含まれる内国民待遇原則に基づき反論可能であると考えます。

 環境消費税率を北欧の付加価値税率並みの24%と仮定し、税抜単価300円の製品を考えた場合、例えば、初用材割合を80%から20%に改善すれば、適用税率は19.2%から4.8%に低下します。売上に対する環境消費税額は57円から14円に下がりますから、改善前357円の価格は改善後314円に引下げることができます。この価格差43円は再生材使用の追加コストを補い、さらに価格競争力を与えるでしょう。


Initially posted January 26, 1998.
Revised November 5, 1998, January 6, 2002.