JR関内駅のすぐ近くにある横浜公園、一般的には横浜スタジアムがある公園として知られている場所。
この公園に何時の頃からかおじさんはやってくるようになりました。
おじさんはいつも決まった場所で、歌を歌っています。
おじさんはいつもペットボトルを4本用意して、それを一直線に50cm間隔ぐらいで並べています。
さらにペットボトルの前には歌本が一冊づつ配置されていて一種様式美のようなものすら感じます。
歌は決まって演歌で、どういう訳だか私が一度も聞いたことのない歌ばかりです。
もしかすると、おじさんはオリジナリティ溢れる節廻しなので判らないだけかもしれません。
おじさんは早い日には午前中から歌い始めて、夕方辺りが暗くなるまで歌っています。
さすが歌本を5冊も用意しているだけのことはあります。
おじさんの前を通る人たちは皆、聞いているのかいないのかちょっと視線を向けるだけで、
無視するかのように通りすぎます。
かくいう私もすっかり日常の光景になっているせいか気にもとめずに素通りします。
なんだか誰も聞いてあげないのが可哀相に感じます。
この公園で歌う以前、おじさんは伊勢崎長者町にある地下鉄の出口で歌っていました。
地下道入り口で歌うとエコーがかかっておじさんは気持ち良さげに歌っていたのを思い出します。
おじさんの歌っていた場所のすぐそばに、横浜松坂屋があります。
そこでは夜になると「ゆず」の二人が中学校のジャージを着てストリートライブをしていました。
そうです「ゆず」も「おじさん」もスタートラインは一緒なのです。
「ゆず」は認めれてメジャーデビューしました。「おじさん」は怒られて公園デビューです。
どうしてこんなに差がついてしまったのでしょう。
この夏、「ゆず」は横浜スタジアムでコンサートをします。
「おじさん」はその日もきっとスタジアムの外で歌っていることでしょう。
書いていてますます可哀相になってきました。
先週、「おじさん」の歌っているのを別のおじさんが聞き入っていました。
「おじさん」はいつにも増して熱唱していました。
同じ日の午後、今度は観客のおじさんがペットボトルに囲まれたステージで歌っていました。
観客になった「おじさん」はなんだかとっても嬉しそうに手拍子をしていました。
今日、「おじさん」はまた一人で歌っていました。
けれどもペットボトルは9本に増えて、歌本も10冊ぐらい配置されています。
「おじさん」はもう完全にやる気です。なにをどうやる気なのかはわかりませんが間違いありません。
がんばる「おじさん」に敬意を表して、
私もちょっとだけ勇気をだして拍手ぐらいしてあげようと思ってます。(了)