久々のサブ10
サロマ湖100kmウルトラマラソンを10回完走するとサロマンブルーという称号を頂けます。

このサロマンブルーの代表的な特典はブルーのゼッケンをつけて走れる事です。10回完走して11回目出場する時から、この恩恵を受けられます。さらにサロマンブルーになると足型プレートがゴール地点に永久に刻まれます。これは10回完走した翌年、ゴール地点に設置されるサロマンブルーメンバー控室で足型をとり、その翌年会場へ行くと見る事ができます。つまりこのプレートを見るには、12回サロマへ行かなければなりません。今年は私にとって、その区切りとなる12回目のサロマでした。

       

ところが、私がサロマンブルーを達成した翌年から足形プレートが廃止され、名前を刻んだ小型サイズのプレートになってしまいました。非常に残念でしたが、決まってしまったものは仕方ないので名前と縮小した足型模型を刻んだプレートを昨年作り、今年はそれを拝む筈でした。

       
       ゴール地点に飾られる予定だったプレート。頂いて帰りました。

それがどういう経緯か分かりませんが、足型プレートが復活となり、今年もう1回プレートを製作する事になったのです。そのため、昨年制作したプレートはお蔵入り? ゴール会場に刻まれる事はなく、もう1回サロマへ足を運ばないと展示されたプレートを目にする事ができなくなってしまったのです。なかなか足を洗わせてくれないサロマ(笑) もっとも今年プレートを拝めたからいって、足を洗うことは思いますが… 目指せグランドブルー(通算20回完走者の称号でゴールドのゼッケン)です。

       
       今年新たに作り直したプレート。来年こそこれを拝みに・・・♪

前置きはこの辺にして、今年もサロマがやってきました。ウルトラは生涯サロマ1本で充分!!
それくらい思い入れを持っている大会です。

今年は4月中旬に大腸ポリープ内視鏡除去手術を受けた影響で約2週間のトレーニング禁止期間があったため、例年のような走り込みができず、不安を抱えていました。でもそのかわりに、走り込み不足を体重を減らす事でカバーしようという作戦が功を奏し、前年比6kg減という軽量ボディーを手に入れる事ができました。サロマ前に出場したレース(20km前後のトレイルレース)では、ことごとく前年の記録を上回る好結果が生まれていました。エンジンの非力さを軽量ボディーでカバーする事に成功していたのです。とはいえ、これは20km程度の短い距離?の話。。。100kmとなると耐久性の部分で大きな不安を感じずにはいられません。

それでも、今回の目標タイムは
ズバリ、サブ10!!
毎年言い続けているような気もしますが、今年も懲りずに挑みます。

2007年に達成して以来、遠ざかっている目標です。直前に当時のレポートを読み返しました。前半はある程度、強気に行って50km地点で30分の貯金を作って、80kmまでなんとか粘り、20分の貯金を残してワッカヘ突入する。これが当時の作戦でした。ここ数年は中盤から後半にかけて訪れる足のトラブルが導火線となり、ズドーンという深い落とし穴に落ち込むようなダメージが発生して、大失速しています。今年は、このズドーンをどこまで遅らせる事ができるのか?ここがポイントです。

足のトラブルというのは、いつも決まっていて、35km付近、国道に出たあたりから発生する左足甲の痛み。そして、この痛みを和らげるために紐を緩める事で発生するマメ&黒爪です。こうなると常に左足をかばいながら走るので、バランスが悪くなりペースが落ち込み、気分も落ち込み、そしてズドーンと深い穴に落ち込んでいくのです。

これを回避するためにはベストフィットなシューズを探さなければならないのですが、私の足は29cmという巨大であり、足幅が狭くて甲が高く、右より左が0.5cm長いと言う何ともわがままな形をしています。サブ10を達成した2007年に履いたシューズ、アシックスのフリークスジャパンは、こんなわがまま足を見事にカバーしてくれ、足のトラブルを起こさず完走に導いてくれました。

しかしその後、このタイプは廃盤となり、数年前に復活はしたものの、形状は似ても似つかない別物に変化していて、全くの対象外でした。それからの5年間は常にトラブルを抱えて、サブ10を逃し続けてきたので、今年こそベストシューズを探すべく、色々と試したかったのですが、そもそも40kmを越えるようなLong走を行えていないため、テストにはならず。。。
結局、大会前夜まで悩む事になりました。

最終的に候補として挙げたのは3足でした。
前年使用して、まぁまぁだったアディダスのボストン。それから当時のフリークスジャパンに似たフラットソールのアシックス・スカイセンサー。そしてギャンブル!?と言えそうなのがノースフェイス・シングルトラック。ボストンとスカイセンサーは過去に使用していてトラブルが発生しているので、覚悟して履かねばなりません。程度は割と軽いほうだったので候補に挙げてはみましたが、トラブルが起こるのを承知で履くと言うのは気が重いです。

ならば!と言う事でランニングシューズにこだわらず、50kmのトレイルレースで何の支障もなかったシングルトラックに白羽の矢を立てました。トレランシューズ特有の柔らかなフィット感、それにヒールホールド感、これは前の2足にはない特徴です。トラブルが発生しない可能性だけを考えれば、シングルトラックが一番良い気がします。しかしロードレースでの使用経験がない。。。これは恐怖です。想定外の大トラブルが起こるとすれば恐らくこのシューズでしょう。

結局、現地へは3足全て持って行きました。
そして悩みに悩んだ末、選んだのは、シングルトラックでした。決め手は、このシューズの持つストーリー性です。このシューズはトレイルレースデビュー年に購入した私にとって初めてのトレイルシューズでした。すでに3年以上使用しているため、アウトソールがすり減ってグリップ力が低下し、トレイルを走るには信用性が薄くなってきています。トレランシューズとしての機能は、ほぼ失っていました。そのため、鎌倉や近所の比較的平坦なトレランコースを走る時のみの使用に制限していたのです。アッパー部分のダメージも酷く、穴が数か所、開いています。そんな老朽化したシューズに最後の花道を。。。という浪花節的な発想で、このシューズを選びました(笑) とは言え、大トラブルでリタイヤなんて事態は避けたいので、予備シューズとしてスカイセンサーを54kmのレストステーションに預ける事にしました。

       

今年もサムズアップ・サロマツアーは、大会前日、釧路空港から北海道INし、レンタカーを利用して、ゴール地点の常呂、受付会場の湧別、宿泊地の紋別へと総距離250kmを走り抜けました。参加メンバーは応援1名、100km参加者12名。合計13名です。前日の昼食はいつものレストハウス常呂、夕食はオホーツクパレス北路で済ませ、各自レースの準備へと入りました。皆、翌日に備えて深酒はいたしません。

       

大会当日は午前3時15分にホテルを出発して、スタート1時間前に会場入りしました。これもいつも通りです。紋別から湧別へ向かう途中、真っ赤な日の出を拝む事ができました。夜が明けた空を見上げると雲は見当たりませんでした。

       

会場に入り室内競技場でレースの準備をすませ、スタート地点へ。。。これもいつもと同じ光景ですが、何度来ても、この時間のワクワク感、ドキドキ感が心を揺さぶります。毎年思うのは『早く国道に出たい!』これに尽きます。私の中では35km付近、オホーツク国道に出る前は前哨戦のようなもので、国道に出てから、ようやくサロマはスタートする!という感じなのです。

       

準備の終わったサムズアップのメンバー達と円陣を組み、互いの健闘を誓い合って、各々が目指すゴールへと向かいスタートしました。私はロスタイム5秒という好位置からスタートさせて頂きました。
※フルマラソンだとトイレへ行かずに完走出来ちゃう事が多いのでロスタイムというのは殆ど気にしない言葉ですが、ウルトラでは時にロスタイムに苦しめられる事があります。
今回のレポートはこの
ロスタイムをクローズアップして書き進めたいと思います

       

スタートラインまでのロスタイムが殆どない、ほぼ最前列からスタートすると1km5分を切るペースで入っても、かなりの選手に追い越されます。ついつい周りの走りに吊られてペースを上げたくなってしまいますが、私の実力でこれ以上、上げればそれは強気ではなく、暴走になってしまうので、これ以上速くならないようコントロールしました。会話をしていても苦しくない最速ペース!これがサロマ序盤の絶妙ペースだと思っています。サロマは他のウルトラと違って参加人数が多いです。

チャレンジ富士五湖は3種目合計で3500名、野辺山は3種目合計で2500名。これに対してサロマは100kmの部だけで3500名です。種目が違えばスタート時間が違うので、集中することはないのですが、3500名が一斉にスタートすると出遅れればトイレ待ちが必至となります。

記録を意識するならば、ある程度、良い位置をキープしてトイレのロスを最小限に食い止めなければなりません。会話ができないような速いペースは論外ですが、抑え過ぎてポジションを下げてしまうのも良くありません。それは完走ボーダーラインの選手にとっても同じで、トイレ待ちのロスが大きくてトイレに入る前は集団だったのに、トイレから出てきたらまばらになっていて焦りが生じ、巻き返そうとしてオーバーペース!!なんて事もあり得るのです。

そんな事を意識しつつ、最初の10kmのラップは52分5秒でした。トイレは1度も行っていないクリアラップです。これでまず8分の貯金を作れました。50kmまでにあと22分の貯金を生み出せれば作戦通りです。例年ならば、少し肌寒さを感じる時間帯なのですが、この日は額に汗が浮かぶくらいの気温でした。まだ暑さを感じるほどではありませんでしたが、このあとどれくらい暑くなるのか少し不安になりました。涼しいうちに少しでも貯金を積み上げておいた方が…そんな事を考えていた気がします。

10kmのラップに手ごたえを感じていたのも束の間、いつもよりも少し早く尿意を感じてきました。このあとのコースを思い浮かべて、どこのトイレポイントが最適かを考えました。ここまでにいくつか仮設のトイレがありましたが、いずれも数人の待ちがいたので、やはり公衆トイレが良さそうです。となると、第一折り返し地点の竜宮台へ向かう途中、サロマ湖側にある駐車場に隣接している公衆トイレが良さそうです。15km付近のエイドステーションと同じところです。この選択は大正解でした。

交通整理ならぬ、トイレ整理をしているおばちゃんが手際よく空いているトイレへ誘導してくれました。『扉を開けて、お兄さんここ空いてるよ!!』全くロスなくトイレへ駆け込む事ができました。用を足して1分以内でコース復帰、上々です。

15km地点を過ぎ、折り返し地点が近づくと先頭集団が現れます。先頭はワイナイナ選手!! その後いくつか集団がいったあと全体の20番前後でサムズ同行メンバーの一人いいのさんが現れました。馬の被りものをしています。この位置であの格好は異色でした。。。

すれ違う選手が徐々に増えてくると竜宮台の折り返し地点が近づいてきているのを実感します。まずまずイイ感じで走れてはいたのですが、今度は便意を感じてきました。できるだけ引っ張ろうと我慢しましたが、18kmの折り返し付近で限界が近づいているのを感じました。

       
       竜宮台、左オホーツク海、右サロマ湖 (photo by fuku)

また考えます!どこのトイレに行くべきか! 選択肢は2か所。竜宮太鼓の奥にある公衆トイレか、竜宮台を出て最初にある公衆トイレか。。。竜宮太鼓のトイレはコースから少し離れているので、待つ事は殆どありません。でも距離はロスします。もう一方はコース脇なので距離的ロスはありませんが、中が見えないので入ってみないと待ちがいるのかどうか分かりません。どちらにしようか迷っていると20km地点が現れました。ラップは52分29秒。1分弱のトイレロスがあった割には上出来です。これで15分30秒の貯金ができました。あと15分作ればOKです。

そうこうしているうちに、竜宮太鼓のトイレが近づきました。行くべきか見送るべきか判断を迷っているうちに通り過ぎてしまいました。となればこのあと数百メートル先に現れるコース脇の公衆トイレに行かなければなりません。そして一目散に駆け込みました。

       
       竜宮太鼓のトイレ (photo by fuku)

個室待ちは1名でしたが、運の悪い事に普段2つある個室のうち1つが故障中でした。。。ここでの判断は間違いだった事に気付きます。ここで発生したロスタイムは7分。せっかく作りだした貯金のうち7分も浪費してしまいました。それでも20km~30kmのラップは58分28秒でカバーできていたので累積貯金はちょっとだけ増えて17分。トイレロスがなければこの時点ですでに25分近い貯金ができていた事になります。でも仕方ありません。これがウルトラです。

30km地点にはスペシャルボトルが置かれたエイドがあります。ボトルにはエナジー系のジェルを収納していました。エイドの少し手前で『ボトルを置いている方、手を挙げて下さい』と言われたので手を挙げてアピールすると大声でナンバーを叫んでエイドスタッフに知らせてくれました。その甲斐あってロスなくボトルを受け取る事ができたのですが、1つ誤算が… ボトルの接合に使ったガムテープの粘着力が想像以上に強くなかなか剥がれません。思い切り引っ張ると途中で千切れてしまいます。このガムテープを剥がす作業に想像以上の時間を要してしまいました。

       
       30kmスペシャルエイド手前の直線。思いっ切り青空です♪ (photo by fuku)

ようやく解体したボトルからジェル3本を取り出し、そのうちの1つを摂取し、残りの2つを背中のポケットに収納して、ドリンクと梅干しを口に含んでエイドを離れました。このエイドでのロスタイムは2分弱??? たった2分ではありますが、この2分を10kmで取り返すには1kmあたり12秒ペースをあげなければいけません。

前半、体力の余っている時ならば12秒のペースアップは可能ですが、終盤に入って12秒上げるのは至難の業です。そう考えると無駄なロスタイムは極力避けるよう注意しなければならないのです。序盤のエイドで2分のロスタイムはもったいなかったですが、これもウルトラ、割り切って進みました。

35km付近でオホーツク国道に出ます。私にとってのサロマはここがスタートです!国道に出ると基本的には1列になって路肩や歩道を走ります。遠くまで連なるランナーの列は、好きな光景のひとつです。国道に出るまでは起伏のない平坦なコースばかりでしたが、国道に出ると変化が現れます。その緩やかな変化に身を委ね、まだまだ先の見えないゴールへ邁進しました。

       
       遥か先を行くランナーまで見渡せてしまうオホーツク国道 (photo by fuku)

30km~40kmのラップは54分47秒。累積貯金は5分加算して22分。脚の方は問題ありませんでしたが、国道に出た事で路面の傾斜(左下がり)がキツくなったせいか、左足甲を締め付けられるような感覚が出始めました。いつもの事ですが、あまり気にせず進みました。走行ペースは1km5分15秒程度で快調ですが、スペシャルエイドでのロス2分があったため、計算通りの貯金を生み出す事はできませんでした。

40km地点を過ぎると月見ガ浜の42.195kmポイントが次の目標になります。いったん国道から離れ、サロマ湖に面した月見ガ浜湖岸道路に入ると42.195kmの常設プレートが現れます。近くには道の駅があるので応援の賑やかなポイントです。サムズアップの幟も掲げられていました。

       
       月見ガ浜の42.195kmポイント付近 サムズ応援隊 (photo by fuku)

せっかく応援に来てくれているので、一息つきたいところではありますが、手を挙げて通過しました。ロスタイムを減らす事と、リズムを維持するためです。フルマラソン地点の通過タイムは3時間50分をかろうじて切っていました。当初の作戦では3時間45分を目安にしていたので少し遅れ気味でしたが、走りのリズムは悪くなかったので、気分的には明るかったように思います。

       

異変は月見ガ浜の湖岸道路から国道に戻った辺りで発生しました。突然差しこんでくるような腹痛、そして急降下感。。。違和感が周期的に襲ってくるため走りに集中できなくなってきました。何とか待ち行列の無いトイレを・・・の思いで進みますが、待ちが無いどころかトイレがなかなか現れません。周期がだんだんと短くなり、これは一大事!?と思ったところで計呂地の町に入りました。ここには交通公園の公衆トイレがあります。待っている人がいるのかどうかは分かりませんが、そんな事言っていられる状況ではないので駆け込みました。結果待ち人数ゼロ。なんとか間に合い処置をすませて5分弱のロスでコース復帰しました。一大事に至らずほっとしたものの、お腹の状況はあまり良くありませんでした。近い将来、また訪れる予感があり、気持ちが少し後退し始めました。

その後、国道の坂をいくつか超えて迎えた50kmポイント、40km~50kmのラップは1時間0分40秒となりました。トイレロスの5分、それに加えて上り坂でペースが少し落ちていたようです。累積貯金を僅かながら使いこんでしまったため21分に減りました。まだまだ貯金を増やしていかなければならない区間だったので、想定外の経過でした。

       
       ときどき現れる上り坂 (photo by fuku)

当初の目標『50km地点で30分の貯金』は3度のトイレとスペシャルボトルの解体ミスにより9分も少ない21分しか作れませんでした。この先のコースと体力の消耗を考えると、これ以上貯金を積んでいくのはとても難しい事です。50km地点で30分の貯金があれば、この先は10km65分ペースでレースを進める事ができます。ここまでは10km60分が採算ラインでしたが、ここから先は10km65分を採算ラインとして引き下げる事ができるのです。

仮に50km~60kmを60分で走れれば、新たに5分の貯金ができるので、60km以降はさらに採算ラインを引き下げる事ができます。これを繰り返す事で精神的なゆとりと自分の走りに対する自信が生まれてくるのです。そういう意味では、21分の貯金というのは微妙な線でした。こうなれば21分の貯金をいかに大事にしてワッカ(80km地点)まで持ち込めるか。。。この一点に尽きます。まずは次の10kmをロスなくクリアして1時間以内で走る事!が大事です。

しかしながら、50km~60kmの間にはサロマで、もっとも長い上り坂があります。53km付近から始まりダラダラと5kmほど続きます。またこの間のエイド(54.5km)はレストステーションになっているので、エイドで補給を行う場合は一旦コースを離れなければなりません。トップ選手はこのロスを回避するため立ち寄らない選手もいるようです。お腹の具合もイマイチでした。となればこの区間を1時間以内で走るのはとても難しい事のように思えてきます。それでも、この時は弱気な私にしては珍しく挑んでいました!ここで1時間を切れればサブ10達成出来る!そんな風に考えていたのかもしれません。

       
       54kmレストステーション、白い袋はサロマンブルーメンバー用 (photo by fuku)

レストステーションに到着するとすかさず預けておいたバッグが渡されました。中には予備のシューズが入っていましたが、不要の為、取り出さず、替わりに着用していたアームカバーを外してバッグにしまい再び預けました。ご老体のトレランシューズは、100点ではないものの、マメや黒爪を予防してくれているという点では充分満足できるレベルでした。

       
       ホタテ貝柱おにぎりが名物 (photo by fuku)

エイドでは水分と梅干を口に入れ、ウィダーインゼリーのエネルギーパックを1つ握ってコースへ復帰しました。この先続く、長い上り坂で少しづつ口に含みエネルギー補給をしていきます。視線を下に落とし、じっと耐えました。坂の頂点は、視覚ではなく脚から伝わってくる触覚で感じました。上りこう配が徐々に緩やかになり、平坦に感じ、下りこう配へ。。。走りに集中できていたように思います。

下りに入ると着地の振動で揺さぶられたせいかお腹の違和感が増してきました。また左足甲を締め付けられる感じが痛みへと変わってきました。それでも60km地点までは、そのまま我慢しようと決めていました。『治せない苦しみは、慣れてしまえ!』 自分にそう言い聞かせて、前へ前へと脚を繰り出しました。50km~60kmの最難関区間を1時間以内でクリアして自信を持ちたかったんだと思います。この10kmのラップにこだわっていました。

坂を下りきり、サロマ湖に直面すると間もなく60km地点が現れます。この10kmのラップは58分25秒でした。貯金を使わずに逆に貯める事が出来た!小さなこだわりが、大きな自信になりました。イケる!!いや行かなければいけない!!サブ10という目標が達成義務へと変わりました。60km地点のエイドで補給をすませ、一度左足シューズの紐を緩めました。甲の痛みが我慢できなくなってきたのです。痛い部分を緩め、その上下を強めに締めて縛り直しました。次の10kmを再び1時間以内で走る為には、必要なロスタイムでした。

       
       60km地点のサロマ湖。これぞサロマンブルー!!  (photo by fuku)

60km地点を過ぎ、一度サロマ湖から離れ、短い坂を上りきると国道から折れて、キムアネップ岬という地域に入ります。岬の向こう側に広がるサロマ湖を見降ろしながら下って行きます。空とサロマ湖が交わる境界線がくっきりと見渡せました。下り坂に入ると再びお腹と左足甲にストレスがかかります。左足はシューズの紐を結び直し、一度は解放されたかに思えたのですが、再び痛み始めました。それでも、爪やマメが出来る兆候はなかったので、深刻には考えませんでした。『こらえきれなくなったら、また結び直そう』その程度でした。むしろ心配だったのはお腹の方で、再び周期的な違和感に襲われ始めました。早いうちに処置しておかないと大変な事になってしまうので、キムアネップにある駐車場隣接の公衆トイレに駆け込む事にしました。

       
       キムアネップ岬へ (photo by fuku)

待ち時間ゼロ、実行時間3分。トイレロスは最小限で切り抜けられましたが、63.5kmのスペシャルエイドでまたしてもボトル解体に手こずりました。100円ショップのガムテープ、恐るべき粘着力です。結局60km~65kmの5kmに33分掛かってしまいました。

65km地点はコース中、唯一といってもよい日陰にあります。通称魔女の森です。涼しいうえに耳元で魔女が『歩け~歩け~』と囁くので、ついつい歩きたくなってしまうポイントです。しかし今回ばかりは歩いている訳にはいきません。前を行くランナーに焦点を合わせて頑張って走り抜けました。

       
       通称、魔女の森  (photo by fuku)

魔女の森を抜け、白帆地区に入ると名物エイド斉藤商店が現れます。白帆のオアシスと呼ばれるここの私設エイドでは、お絞りが手渡され、湯呑みやグラスに入った麦茶のほか、トマト、キュウリ、ブルーベリーなど嬉しいサポートが受けられます。温かなおもてなしをゆっくり受けたいのはヤマヤマですが、ここで時間を掛けていると集中力が切れてしまうので、お絞りで顔を拭い麦茶とトマトを素早く頂いて、走り去りました。

       
       白帆のオアシス、斉藤商店の私設エイド  (photo by fuku)

65kmを過ぎてから1km毎のラップをチェックしていくと、ほぼ1km6分を刻んでる事が分かりました。エイドでの補給ロスを除けば、クリアラップなので走行ペース自体が1km6分まで落ちてきています。頭で感じている疲労感よりも実際の疲労度は進んでいたようです。ズドーンが近づいているのを実感し始めました。

69kmのオフィシャルエイドにはコーラがありました。20か所近くあるエイドでコーラが置いてあったのはたったの1か所。とても有難い事ですが、来年はもう少し増やしてください。。。

70km地点の通過タイムは6時間39分28秒でした。60km~70kmは1時間2分29秒。ついに分単位で1時間を越えてしまいました。走行ペースが1km6分に落ち始めたので、ロスタイムを吸収できず、そのまま貯金の消費になってしまいます。当初の青写真『ワッカ(80km地点)で20分の貯金!』を実現するには、次の10kmを1時間で進む必要があります。ペースが落ちてきているので、ロスタイムを極力切り詰めなければなりません。

70km~74kmまでは長い直線コースです。いつもなら74km地点の通称お汁粉エイドを目標(楽しみ)に走るのですが、今年は少し気持ちが違っていました。74kmで気持ちを切ってしまうと80kmまでの残り6kmが辛くなるので、ターゲットを80kmポイントにしていました。そのためお汁粉エイドは通常のエイドと同じように水分と梅干しを摂取し、それに加えてお汁粉の汁だけを飲み、早々に立ち去りました。お腹の調子が不安定だったのでお汁粉に入った白玉(固形物)は受け付けないと言う状況でもありました。

       
       74km地点、鶴雅リゾートのお汁粉エイド  (photo by fuku)

もともと私は、レース中殆ど固形物はとりません。胃に負担が掛からないよう、エナジー系のジェルでエネルギー補給をしています。今回も同じでした。エイドで摂るのはスポーツドリンク、水、ジュースといった水分と、塩分補給のための梅干し。基本これだけです。エネルギーはスペシャルボトルを利用して、10kmにつきジェル1個程度の割合で補給しています。63.5kmのエイドで補充したジェルが1個残っていたので、これを口にしてワッカ(80km地点)へ向かいました。

70km~75kmは29分52秒で乗り切りましたが、ワッカヘ向けて緩やかな上り坂に差し掛かると右足の踵(かかと)で左足の踝(くるぶし)を頻繁に蹴るようになってきました。疲れてくると現れる右足の外旋癖が激しくなってきたようです。

右足のつま先が開き気味になる事に注意して、まっすぐ振りださないと左足の踝に激しい痛みが走ります。サブ10へ対する執着心があるせいか気持ちは前へ前へと進んでいるのですが、身体の方は悲鳴を上げ始めていました。

79kmの看板を過ぎると、ワッカへ向かう選手とワッカから出てくる選手が見えてきます。向かう選手は残り20km、出てきた選手は残り2km。天と地が交わるポイントです。80km地点の数百メートル手前に設置された最期のスペシャルエイドでジェルを補充しワッカへと向かいました。70km~80kmのラップは1時間0分50秒。スプリットは7時間40分18秒でした。80kmを8時間がサブ10ペースなので約20分の貯金を維持できました。左足の甲とお腹という2か所のトラブルを抱えながらのレースでしたが、何とか当初の予定通り『20分の貯金を持ってワッカ突入!』が果たせました。サブ10達成を予感した瞬間です。

80km地点を越え、左右に曲がりくねった林道を抜けると、突然目の前が開けてきます。人工の建造物が何一つなく、どこまでも広がるオホーツク海とはるか彼方で交わる雲一つない青空。。。そして深い緑に覆われたワッカ原生花園。私の頭の中をコブクロの『そこにしか咲かない花』が流れるポイントです。

♪何もない場所だけれど ここにしか咲かない花がある
 心に括りつけた荷物を静かにおろせる場所・・・


スタート地点からずっと背負ってきたサブ10達成のためのシナリオをここで静かにおろしました。残り20kmはいったん時の流れを忘れて、短い夏の間だけワッカに咲き誇るエゾスカシユリやハマナスにたっぷりと視線を注ぎ、心のシャッターを切り続けます。肉体の疲労は限界に近付いているのに、心の中はどこか清々しくて、次の1歩で終わってしまいそうな程、重たい足取りではありましたが、これが永遠に続けられるような気もしてきます。

       
                                       (photo by fuku)

長いような短いような不思議な感覚にとらわれながら、気がつけば折り返し地点に到達していました。80km~90kmのラップは1時間3分40秒。トイレに一度立ち寄りましたが、それが無くても60分は超えていたと思います。走行ペースが1km6分を越えました。90km地点通過タイムは8時間43分54秒でした。残り10kmを1時間16分で行けばサブ10達成となります。予感が確信に変わりました。

ズドーンという感覚は90kmを越えた辺りで現れました。突然、脚に重りをつけられたような感じで、加えて筋肉が硬直し始め、バランスの悪い着地をすると攣ってしまいそうな、危うい状態が頻繁に訪れるようになりました。それでも大きな貯金が勇気となり、悲観的な気持ちにはなりませんでした。1km、そしてまた1km、どんなにゆっくりでも走り続けさえすれば結果は確実に現れるんだと自分に言い聞かせて進みました。距離表示が残り4kmになり、短くも急な坂を登り切り、ワッカ原生花園とオホーツク海に分かれを告げると、残すはゴールへの花道です。

       
                                       (photo by fuku)

ラスト3kmは疲労困憊の身体に鞭をうってペース上げてみました。その結果、ラスト10kmは1時間3分54秒でまとまり、大きな達成感を胸にゴールゲートをくぐる事ができました。ゴールタイムは9時間47分52秒、6年ぶり人生2度目のサブ10達成です。いくつかのトラブルを抱えながらの100kmだったので快心とは言い難いですが、目標を達成できたことは素直に喜べます。時計の針を少し戻せたような、そんな気分になりました。

       

今年のサロマは青さが印象に残る大会でした。雲の無い青空、真っ青なサロマ湖、青空と同化しそうなオホーツク海、過去12回出場の中でもイチ、ニを争うぐらい青く澄み渡っていたような気がします。その割に気温は高すぎず、風がとても爽やかでした。気象状況に対する捉え方は各自違うでしょうが、私にとっては歓迎すべき条件だったように思います。

直前まで悩んだシューズの選択は間違っていなかったようです。中盤から終盤に掛けて左足甲が痛みましたが、紐を緩めた後も、足がずれる事はなく、黒爪やマメはひとつも出来ませんでした。見た目はボロボロのシューズですが、しっかりと足を守ってくれました。後半、かなりすり足になってしまい、アウトソールは見るも無惨になってしまいましたが、最後の花道を見事に飾ってくれました。

       

ロスタイムは、スタートまでが5秒、トイレロスは5回で合計17分スペシャルボトルの解体に要したロスが合計4分。こんなところです。これが無ければ…なんて野暮な事は言いません。これがウルトラです。

今回、サムズアップから参加したメンバーは12名で11名が完走。2013年大会の完走率(63.9%)と比較すると驚異的だと思います。全員完走を旗印に掲げてはいましたが、これはまた来年の目標です。これに関しては結果よりも、そこを目指す事に価値があると思ってます。『行けるところまで行ければ~』ではなく『本気で完走する!!』そう決意してスタートする事が大切なんじゃないかと。。。

       

レース翌朝、紋別プリンスホテルの露天風呂に浸かりぼんやりとレースを振り返りました。サロマ遠征の中で一番好きな時間かもしれません。サムズツアー参加メンバー一行は、ホテルで朝食を摂った後、旭川へ移動し、ランチを一緒に食べ、この日に帰るメンバーは美瑛を観光して帰りました。
もう1泊した私たちは、富良野に滞在し、優しい時間を過ごしてきました。美味しいものを食べ、癒しの空間を満喫し、富良野の知人に挨拶して、再会を誓ってきました。

       

来年はどんなメンバーが集まるのか? どんなドラマが待っているのか? 何度出場しても、サロマへの想いは冷めません。仲間のサロマンブルー達成を心待ちにしつつ、自らのグランドブルーへ突き進みます。そう言えば、足型プレートも楽しみです♪

       

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