『トレイルはするけど、トレイルレースには絶対に出ない』これがランナーとしての私のポリシー?でした。山道は危険が多いし、怪我したら簡単には救ってもらえないし、狭い山道で競争なんて絶対無理、エイドだってロードに比べたら少ないし、山に入ったら応援もない? トレイルは気の合う仲間と楽しみながら、マラソンのトレーニングを兼ねて走る程度で充分! 一生かかっても、トレイルレースのスタートラインに立つ事はないだろう!と思っていました。

それなのに、2010年10月3日(日)AM6時30分、斑尾高原スキー場。レストラン・ハイジの前に設置された派手なスタートゲートの前に、立っていたのでした。




2009年の信越五岳トレイルレース。この大会にボランティアとして加わったのが、そもそもの切っ掛けでした。『ボランティアしませんか? 宿泊費はタダになるし、参加賞のTシャツも貰えるし、前夜祭にも参加できますよ!』この友人の甘い誘いに惹かれ、ボランティアスタッフとしての参加を決めたのが始まりでした。もともと、レースは参加する側で、いつもサポートばかりして貰っているので、たまには、サポートする側にまわって、レースを支える側の大変さを経験してみようという興味もありました。場所が斑尾高原で、近くには野尻湖やトレイルコースがあるので空き時間に走る事が出来る? そんな思惑もビミョーにありました。動機としては、ちょっと不純な部分もありましたが、この時の経験が、トレイルレース参戦への大きな分岐点となったのです。

なぜトレイルレースに参戦してみようと思ったのか? 一番大きな原因は、トレイルランナーの格好良さに惹かれたから!だと思います。2009年信越五岳のスタートを見送った時、そこにはロードレースとは違う何とも表現しがたい格好良さ!があったのです。トレラン用バックパックを背負い、急な斜面に立ち向かっていくその姿は、『速いランナーより、強いランナーになりたい』という自分の欲求にピッタリと当てはまっていたのだと思います。それに会場の雰囲気もロードレースとは大きく異なっていました。メーカーの格好良いロゴが並ぶスタートゲートには、心をくすぐられましたし、選手のスタイルもロードレースのようにランパン・ランシャツ、スタート前はジャージ上下のような定番スタイルがなく、とても個性的で楽しげでした。

 信越五岳トレイル110kmのスタート風景

大会前日には参加ランナー、ボランティアスタッフ、応援サポーターなどが一堂に揃って、盛大なパーティーが催され、大会に関わる全ての人が一体化している感じがありました。また再会したランナー同士が握手をしたり、ハイタッチをしている姿が湘南海岸でサーフィンをしているグループと被って見え、妙に楽しそうで、ちょい悪おやじっぽくて、この輪の中に自分も身を置いてみたい!そんな思いもあったのだと思います。また大会前日に走ったトレイルコースが、これまでに走ったコースと比べると格段に走りやすく、もっと先へ、もっと遠くへと思わせてくれるほどの魅力があり、こんなに素晴らしいコースを走れるならレースもありかな?という心の変化が生まれました。

 極上のトレイルコース

そんな諸々があって、トレイルレースもありだな!! という結論に達したのでした。
では出場するレースとして、なぜ斑尾フォレストトレイルズを選んだかと言うと、これも偶然のような遭遇?でした。

ボランティアスタッフの宿泊場所として提供された斑尾高原ホテルのフロントに張り出されていた斑尾フォレストトレイルズ50kmのポスター、これにぐっと惹かれたのでした。信越五岳は100km(2009年)、しかも夜、山の中を走るなんて…長男で臆病な性格の私にはハードルが高すぎる。いきなりこんなレースは無理。でも50kmならば明るい時間に始まり、明るいうちにゴールできる。しかも斑尾フォレストトレイルズは練習で走ったコースと重なっている。『出るならコレだ!』とこの時、2010斑尾フォレストトレイルズ50kmへの出場が決まりました。

2010年の斑尾フォレストトレイルズ50kmの出場にあたり、とりあえず一度は、トレイルレースを経験しておこうと思い、2010年4月の青梅高水山トレイルレース(30km)に出場しました。結果は3時間7分で完走。トレイルレースの雰囲気を実感し、レースの楽しさを味わう事ができました。何とかなるという自信も芽生え、斑尾トレイルがより一層楽しみになってきました。

さらに前年に続いて、信越五岳トレイルレース(2010年)のボランティアスタッフにも参加。空き時間を利用して斑尾トレイル50kmの全コースを2日に分けて試走。イメージもしっかり掴め、コースの素晴らしさを再認識して、より一層大会が楽しみになってきました。

10月2日(土)、自宅をAM4時に出発し、東名−関越−上信越と乗り継いで、現地にはAM9時ころ到着しました。コースガイダンスはPM4時からと言う事で時間がたっぷりとあった為、大会スポンサーになっているサンクゼールワイナリーを見学したり、大会当日のエイドポイントになっている希望湖を見学しました。

 
サンクゼール・ワイナリー                      希望湖(レースでは第2関門&第5エイド)

さらに前回の信越ボランティアの時に、色々と御話を聞かせて頂いた喫茶『田舎』に立ち寄りランチをして、まだらおの湯で入浴し、斑尾高原を満喫してから、受付、コースガイダンス、競技説明を受けました。

 
喫茶『田舎』 気さくなマスターがとても楽しい!!         カリスマトレイルランナー石川弘樹さんのトレラン講習

前夜祭はPM6時30分から行われました。2週間前、信越五岳トレイルレースの時も同じ会場だったので、タイムスリップしたような感覚になりましたが、2週間前はボランティアとしての参加だったので、ビール、ワイン、日本酒と大いに飲みまくり、リラックスしての参加でしたが、今回は選手なので、ビール1本、ワイン1杯程度に抑え、翌日のレースに備えました。

 

この大会は宿泊施設が、大会主催者から割り当てられるようになっています。参加者はホテルorペンションの選択をすると、宿泊先が自動的に割り当てられます。(同伴者がいれば考慮して貰える。)前日の宿泊が大会参加の条件となっていますが、値段は良心的なので、これは良いと思いました。サロマのように大手旅行会社が入ると、宿を囲い込んでしまって、バカ高い価格のツアーに組み込まれてしまうので、旅行会社の入るスキがなく、また大会運営に協力してくださっている地元の宿に直接、支払う事ができる、この方法は凄く良心的に感じました。今回、割り当てられたペンションは、ロッジぶなフォレスト。部屋が清潔で明るく、また広々していてとても快適。食事は、夕・朝食ともに全選手・サポーター揃って、会場で頂くので、実際は寝るだけになってしまいましたが、個人的に来た時は利用しても良いかなぁと思わせてくれるところでした。

大会当日はAM5時からの朝食サービスにあわせてAM4時に起床しました。ハイドレーションに何リットルの水を入れるかなど悩みどころはありましたが、トレラン用バックパックを持って走るので、迷ったら入れちゃえ!という気楽さがあり、あまり深く考えなくても良いような気がしました。ゼッケンは前後につけるのですが、背中はバックパックを背負ってしまうので、背中に付けるのではなくバックパックにつけます。また前面も胸につけるとストラップでグチャグチャになってしまうので、パンツに付ける方が多いようです。

準備が整い、宿を出て、朝食会場へと向かいました。天気はおおむね良好。心配された雨も日中は大丈夫のようです。朝食会場ではすでに多くの方が集まっていました。サンドウィッチ、ぱん、おにぎり、スープ、コーヒー、ジュースなどを頂きました。参加者が一堂に集まって同じものを食べてスタートラインに立つ!これもなんか良い感じです。レース直前ってナーバスになる事が多いのですが、妙に楽しいのは何故なんでしょう? ドキドキする感じは殆どなく、ワクワク感が高まるばかりでした。

 

AM6時30分、前置きが長くなりましたが、スタートの瞬間を迎えました。
風は少し強かったですが、晴れ間がさしてきて、とても景色が綺麗です。スポンサーのロゴが並んで表示されている、スタート&ゴールゲートに日が当たり輝かしく見えてきました。スタートまでの数分間はレースプロデューサーの石川弘樹さんが軽快なトークでスタートラインに立つ参加者をリラックスさせてくれました。そして、ピストルではなく、チアホーンが鳴り響いてスタートとなりました。

 

1年前は、信越トレイルに出場しているトレイルランナー達を憧れのような眼差しでみつめていました。それが今、その輪の中に自分が身を置いていると思うと、ちょっと不思議な気持ちがしてきました。応援サポーターに自分はどう映っているか? ちゃんとトレイルランナーになれているのだろうか? 場違いな格好・振舞いはしていないだろうか? そんな思いが頭の中を駆け巡っていました。チアホーンやカウベルが鳴り響く中、一団となってアスファルトの坂を登って行きます。数百メートルの坂を登り切るとトレイルに入っていきます。ここから先約50km。僅かなアスファルト部分を除けば殆どすべてが極上のトレイルコースとなります。

 

スタート直後は斑尾高原スキー場がステージとなります。急な上り坂を一気にあがり、ゲレンデを横切ります。このエリアはスタート地点に近いのでスタートを見送ってくれた応援サポーターが、坂を駆け上がって声援を贈ってくれます。2週間前は、全く逆の立場で選手たちを、見送っていました。この人垣を過ぎると、急な直登が始まります。歩いていても息があがるほどの急斜面を登り、再びゲレンデを横切ると、本格的なトレイルコースへと突入していきます。



適度な斜度の下り坂は、快調に飛ばせます。クッションが効いている路面なので、着地の衝撃がなく、心地良いスピード感を味わえます。スタート直後にゲレンデを直登したこともあり、かなり高いところまであがったようで、10km付近までは下り基調の快適なトレランが楽しめました。10km地点の通過は52分。上出来!いや速すぎでした。女子のトップ選手の前を走っていました。10km地点を過ぎると暫くは平坦な道を進み、15km付近から砂利の林道を緩やかに登って行きます。

 

走りを歩きに替えなければならないほどの斜度ではないので、ロードを走るような感覚で登って行きました。林道を登りきったところにある、第2エイド(2A)の少し手前からは野尻湖が見下ろせる絶景ポイントがあります。晴れ渡っていて、真っ青な野尻湖がとても綺麗に輝いて見えました。2A(18.5km)は、1時間38分で到達。エイドスタッフの情報によると、総合20位くらいだったようです。

 試走したときの野尻湖。レース当日はもっと綺麗だった。

2Aを過ぎると斑尾山頂へ向けての急登がはじまります。400m程度の標高差ですが、比較的なだらかなコース設定の、この大会にあっては最も急な登りです。ここは脚を使わずにじっくりと攻めなければいけないのですが、総合20位?なんて言葉に惑わされ、女子のトップ選手について、グイグイ登ってしまいました。思えば、ここでの無理が…?
標高1382mの山頂にたどり着いた時は、かなり息があがっていました。そしてここからは急な下り坂が待ち構えています。下り序盤にある森を抜けると、そこから先はスキーのゲレンデに出て、上級コース?を一気に下ります。飛ばし過ぎには注意が必要ですが、ブレーキをかければ、太ももの前面に張りが来ます。トレイル技術が未熟な私にとって下りは悩みの種。斑尾の山頂まではついていけた女子トップの背中が、下りに入った途端、見る見るうちに遠ざかって行きました。

    山頂からのダウンヒル

苦戦しながらも、ゲレンデを下りきると3A(23.9km)ポイントに到着します。賑やかな声援を受け、エイドではコーラ、ムサシ、じゃがいも等を頂いて出発しました。ここから先は、森林の中のクッションが効いたトレイルを走り続けられる快適なエリアへと入っていきます。

 

2週間前の試走では、3Aポイントで区切り、2日間で走破しました。3Aポイント以降は、前半の斑尾山超えのような高低差はなく、300m程度の標高差がある袴岳と、200mくらいの標高差がある毛無山だけです。それ以外は緩やかなアップダウンが続きます。試走で後半エリアを走った時の印象は『楽だなぁ〜』というものでした。そんなイメージを抱いていた事もあり、前半は敢えて攻めてみたのですが、3Aポイント到達時に、ちょっとヤバイかなぁという感触がありました。でもまだこの時はまだ、あのコースなら大丈夫!と楽観していたのですが・・・ 3Aポイントを過ぎ25km地点を2時間39分で通過しました。単純に2倍すれば、5時間18分。後半、多少失速しても5時間30分は狙える!? この時点では、そう思っていました。5時間30分なら20位以内に入れる!? 20位以内に入れば、来年の出場権が・・・ そんな甘い考えもあったのですが・・・

  白樺林
25kmを過ぎたあたり、沼の原湿原

25kmを過ぎたあとのちょっとした登りで、最初の異変が発生しました。ふくらはぎにピクっという違和感。。。あっ攣るかもぉ?と思い走りから歩きに変え、この時は事なきを得ましたが不安は募りました。持参していた塩を舐め、パワージェルでエネルギー補給しました。その後、しばらくは大丈夫だったのですが、袴岳の登りに入った辺りから、この兆候が頻発するようになりました。いずれも攣るところまではいかなかったのですが、無理に押していけば、いずれは・・・と思ったのでペースを落とし、歩く部分を増やす事にしました。その結果、袴岳山頂付近の30km通過が3時間27分。袴岳の登りがあったので、仕方ないとは言え、この5kmに掛かったタイムが48分。こうなると残りの20kmを2時間程度で行かなければなりません。この状態からすると厳しいかな?という雰囲気になってきました。

 袴岳山頂(1135m)

袴岳からの下りはスイッチバックを繰り返す道幅の狭いコースが続きます。テクニカルな?下り坂であるため、前半のようにペースを上げる事はできませんでした。速い選手は、ターン(切り返し)するときもスピードを落とさずに下って行きますが、私の場合、切り返す手前で急減速しなければ曲がれないので、加速、減速を繰り返し、脚への負担も大きくなります。下り坂で体力を回復させたいのに、むしろ大きく消耗しているような???  袴岳を下り終えると次の目標は赤池にある4Aポイントになります。ゆるやかな砂利の林道を登っていると、ハイドレーションの水が切れました。今、どれくらい水が残っているか?熟練したトレイルランナーならば、背負っていても、それが分かるそうですが、私にはまったく分かりません。水が切れたのがエイド手前、数キロメートルだったのは幸いでした。エイドポイントを過ぎていたら、大変でした。。。

 赤池へ続く砂利道(緩やかな登り)

4A(33.8km)地点では、コーラが無い代わりにぶどうがありました。ムサシとぶどうを頂き、ハイドレーションへの水の補給を行って出発。さぁ出ようと思った時に、みほちちゃんと遭遇しました。私が先発してエイドを離れましたが、しばらくすると、後ろから凄いスピードで現れ、下り坂で、並ぶ間もなく置いて行かれました。あの下りのスピード凄すぎます。4Aポイントで女子6位であったことを知らされスイッチが入ったとか・・・ 私を抜くときに同時に女子選手も抜いていたので、5位に浮上! その前の女子選手とも、そんなには離れていないので、どこまで順位を上げるのか楽しみなくらい凄いスピードでした。

 3位入賞のみほちちゃん。私を抜いて行った選手では最速!!

エイドで現在の順位を知り、スイッチが入る人もいれば、遠ざかる目標タイムと身体の現状を認識してスイッチが切れる選手も居る? もちろん後者は私。。。 ここから先は、いかに脚をごまかし、攣らないようにケアしながら、走るかがポイントでした。35km地点には4時間8分で到着。この時点で目標タイムは、5時間30分から6時間へと下方修正しました。それでも6時間を切れれば、当初の想定タイム通り!上出来な感じです。脚のピクっという違和感と付き合いながら、第2関門(37.4km)の希望湖に到達しました。ここにはK枝も登場。ハイカー達の声援も受け、テンションをあげて通過しましたが、その直後に入ったトイレでついにやってきました。

 思い切りの作り笑顔?

トイレに入り、両脚を伸ばして直立した瞬間、それまでのふくらはぎではなく、太ももの内側が攣ったのでした。しかも両足いっぺんに…トイレの個室で、ちいさな呻き声をあげましたが、小用の真っ最中。とにかく用を足さねば何もできない!と言う事で、そちらを最優先させて、脚のほうは我慢しました。

トイレから出て、何度か屈伸すると攣った状態は解消されましたが、太ももには強烈な突っ張りが残りました。ここから毛無山山頂へ上がりぐるっと1周します。距離は5.6km。標高差100mちょっと。2週間前の試走では、35分で走れていた場所ですが、こうなると、そうは行きません。苦戦が予想されました。2週間前は、登りであっても殆ど走りでクリアできた場所でしたが、今回はオール歩き。歩きでも危ないくらいの深刻な状況でした。救いは森の中で誰にも見られていないという事でした。大苦戦しながら、やっとの思いで毛無山山頂に到達し、さぁ下りだぁ!と思った瞬間、事はおきました。

まずは太もも内側、次にふくらはぎ、とどめに脛の外側。さらに背中のポケットから塩を取り出そうと思った瞬間、上腕までもが攣るという、いまだかつて経験したことがないくらいの攣り多発状態。立っているのが辛く、腰を下ろそうとすると、また別の筋肉が悲鳴を上げ、立つ事も座る事もままあらず、生まれたての仔馬のようにプルプルと震えながら立ちつくしていました。何人かの選手が目の前を通過していきます。みな心配そうに声を掛けてくださります。トレイルランナーって優しい!そう思いました。立ちつくすこと数分。塩、パワージェルでは回復しませんでしたが、ウィダーインゼリーを食べ切った瞬間、潮が引くかのごとく多発していた攣り状態が改善され、1歩も踏み出せなかった状態から、何とか歩を進める程度に回復しました。

慎重に1歩1歩、歩いて下り、脚の状態を確かめながら歩を進め、次にゆっくりと小走りしてみました。ゆるやかな下り坂で、立て看板には『石川弘樹おすすめトレイル!』と書かれているほど、気持ち良いエリアです。脚の状態が万全ならば、自分に酔いしれる事ができる最高の場所でしたが、今回ばかりはお預けです。脚の具合を最優先して、ゆっくりと下りました。

下りの途中にあった40km地点は4時間53分で到達しました。攣り多発状態から回復はしましたが、ちょっとした変化が起こると、すぐに部分的な攣りが発生します。木の根を越えようと踏み切った瞬間、小さな石を踏み僅かにバランスを崩した瞬間、小さな段差を越えようと踏み込んだ瞬間、急なカーブを曲がろうと体重移動した瞬間。トレイルには欠かせない動きをする度に脚が攣りました。ロードならば、すり足で同じような動きをしていれば良いのですが、トレイルコースとなると、すり足では躓いてしまうので、そういう訳にもいきません。

ごまかし、ごまかし、しながら最終エイドとなる5A(43km地点)に到達しました。ここには再びK枝登場。事情を説明すると、随分と心配してくれましたが、ここまで来て辞めるわけにもいかないので、エイドでコーラをがぶ飲みして、じゃがいもに塩をたっぷりつけて食べ、ハイドレーションを満タンにして、ゴールを目指してスタートしました。じゃ行きます!と言うと、エイドスタッフから、行ってらっしゃい~頑張って~という本当に温かい声援が飛びます。これはトレイルならではのような気がします。

 苦戦しながら5A到着・・・

45km地点には5時間31分で到達しました。エイドでの補給が功を奏したのか、この2~3kmは順調に走り続ける事ができていました。人間って極限の状態?になるとちょっとした栄養補給で、こんなに状態が改善されるものなんだぁ~と感心したりもしましたが、さらに数キロ進んだら、エネルギーが切れたのか、再び攣り地獄へ転落。極限の状態になると、回復も急なら、悪化する時も激しいんだなぁ~とさらに感心して苦笑い。もうここまで来ると、脚が攣るという状況さえも笑えてきました。(あと少しで斑尾街に出られるというところなのにー)

森の中のトレイルがススキに変わると、突然、斑尾のペンション街が現れます。遠くから聞こえる鈴の音と声援で、斑尾の街が近い事を実感しました。ご家族揃っての声援に応えて元気に走り出したい気持ちはヤマヤマなのですが、脚が、身体が言う事をきかず、登りはトボトボと歩くのみです。走りで応えられないなら言葉で!と言う事で、精いっぱい『有難う!』を発し、笑顔で頭を下げました。 レストラン・ルドルフの脇を抜け、喫茶『田舎』の前にくると再びK枝が登場。コーラをひと口貰い、ゴールエリアへ進みます!! 斑尾高原ホテル裏側のウッドチップを歩くようなスピードで走り、下り坂を慎重に下り、さぁゴールだ!と思いきや、ここからが選手の見せ場!?

 
もうヘロヘロです。

一度ゲレンデを上がって、ゴールに向かって疾走すると言う粋な?計らいがあるのです。しかし、この日ばかりは、少々有難迷惑???だったりして・・・ 僅かな登りに悪戦苦闘しながらようやく最後の坂を登り切りました。そしてゴールエリアを見下ろした瞬間、この粋な計らいが理解できました。風がとても気持ち良く、緑が鮮やかで、こちらを見上げている沢山の応援サポーターを見降ろしたら最高の気分になってきました。 さぁ、あとは下るだけだぁ~と思ったら、一気に解放され、妙に楽しい気分になってきました。ハイジになった気分で、草の上を駆け下りよう!!とゴールを目指して走り出しました。(実際はクララのようだったかも?) すると、ゴールエリアからこちらへ手を振りながら走ってくる人が!! 誰?(ペーター?)と思ったら、先にゴールしていた、みほちちゃんでした。50kmを走り終え、見事なまでのマクリ炸裂で女子3位入賞を果たし、それでも走り足りなくて、ゲレンデ直登ダッシュ!! 凄すぎます。

 

ゴールの瞬間は、フルマラソンを初完走した時の感動や、サロマ湖100kmでギリギリ完走した時のようなこみ上げてくる感動はありませんでしたが、凄くつらい思いをしていた筈なのに妙に楽しくて、結果としては暴走⇒失速⇒撃沈という非常に残念な筈なのに、清々しい気持ちでいっぱいでした。振り返ってみると脚が攣った時も、それほど深刻には考えておらず、何とかなるだろ?くらいの心の余裕はあったように思います。それは身体が森全体に包みこまれているようで、なにか居心地の良さみたいなものを感じていたからかもしれません。そんな感じだったので、『トレイルなんて、うんざり!』なんて感情は全く湧いてこず、全体としては、凄く楽しいレースだった!という印象が強いです。これがトレイルレースの楽しさなのかな?と駆けだしトレイルランナーなりの思いを巡らせたりしていました。結果は6時間11分で男子51位。目一杯頑張った結果です。



レースが終わって数日が経ち、トレイルレースの位置づけってどんなんだろ?と自分なりに考えてみました。たとえば、スキーに例えるなら、マラソンはアルペンスキーで、トレイルランニングは、スノーボード。格闘技に例えるなら、マラソンはボクシング。トレイルはキックボクシング。カーレースなら、マラソンはF1で、トレランはラリーカー。マラソンを王道とするならば、トレイルは邪道という事になるのかもしれないけど、これ!と言った定番スタイルが無い分、個性が豊かであったり、歴史が浅い分、選手個々のキャリアが多彩であったり、またスタートするまでの準備が一番大事だって事は、マラソンもトレランも同じだけど、トレランの場合、戦略や求められる技術が複雑な分、ゲーム性が高かったりで、他の競技のように、トレランもいつの日かメジャー種目になるのかも?そんな可能性を感じました。

とりあえず私のトレイルレースは、これで、ひと段落。1年がかりで心と体とグッズの準備をして、ようやくたどり着いたゴール地点。自分はあくまでもロードのランナーだ!という自負があったので、トレイルレースに関しては、これが最初で最後の挑戦だ!とも思っていたのですが、トレイルランニングの魅力に触れ、また新たな扉を開けてしまったような心境になっています。

斑尾フォレストトレイルズ2010は、うまく攻略しきれなかった!という思いが強いので、とりあえず、来年もエントリーする方向で動こうと思っています。もう少し強くなって、それから、もう少し賢くなって、このスタートゲートをくぐりたいと思います。(完)
別のレポートを読むはこちら

2010年斑尾フォレスト・トレイルズ50km  Madarao Forest Trails 50km

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