バルブクリアランス調整
14年目、走行80,000kmぐらいからタペット音が酷くなってきたのでバルブのクリアランスを調整してもらうことにしました。

そもそもタペット音、クリアランス調整とは?
(「そんなの常識!」という方は読み飛ばしてください^^;)

一般に自動車用エンジンの吸排気バルブは、バルブスプリングによって常に閉じる方向に力が働いているので、何もしなければバルブの傘が燃焼室のバルブシートに収まってきっちりバルブ閉の状態になります。

この状態にカムからの力がバルブスプリングの縮まろうとする力に抗して加わることによって、バルブは押され、開く方向に動きます。こうしてバルブは開くわけですが、閉じるときにはバルブスプリングの縮まる力とバルブシートからの反作用以外力が加わらないことが理想です。少しでもバルブを開くという方向の別の力が加わるとバルブがバルブシートから離れ漏れを起こす可能性があるためです。

つまり、カムはバルブが全閉する局面では、一切バルブ(もしくはバルブに繋がっているシステム)に触れないことが要求されます。カムはそのベース円(バルブ系に作用しない部分)では、バルブ系から一定の距離を置く必要があるわけです。バルブがバルブスプリングによって縮み傘がバルブシートに当たって位置が固定されたこの状態で、このバルブ系の反対側はカムに届いてはいけないということになりますね。

この距離がバルブクリアランスと呼ばれます。

155のV6エンジンの場合(というか殆どの場合)カムが直接作用するバルブ系は、タペットと呼ばれる金属の筒になります。ご存じの通りこのアルファV6SOHCエンジンは凝った動弁系を持ち、片バンク毎一本のカムで駆動されますが吸気排気で、まったく異なった動弁機構をもっていて、クリアランス調整の方法も異なります。

構造が簡単なのは吸気側で、吸気バルブとバルブスプリング全体に被さるような形をしたタペットが直接吸気バルブを押します。バルブステムと呼ばれるバルブの軸はタペットの筒の中で繋がりますが、バルブステムとタペットの間にシムと呼ばれる薄板を挟みます。このシムの厚みによってバルブクリアランスを調整します。

吸気側は構造は簡単な一方、タペットを外さないとバルブクリアランスの調整を行うことが出来ず、またこの吸気側はカムを外さないとタペットを外せません。つまりカムを外さないとバルブクリアランスの調整はできないということになります。

今回、このカムの取り外しに問題が生じました。お願いした工場によると、カムシャフトとプーリーブラケットはボルト3本で固定されているらしいのですが、ボルトは3本外れたものの、ブラケットとシャフトが固着してしまっていたとのことでした。、

特殊工具でなんとかカムシャフトとブラケットを外してもらい、カムを外しタペットインナーシムを計測し該当厚のものに交換するという手順で吸気側のバルブクリアランス調整してもらいました。

これは特殊工具で、カムシャフトを外してもらっている様子です。


外れたカムと、タペット(吸気タペットの中に排気タペット)、プッシュロッド、カムキャップが写っています。

吸気側のタペット自体には損傷等はなく、新たな計測に従った厚みのシムを入れてクリアランス調整をしタペットはそのまま使われました。

さて、排気側ですが、動きがちょっと複雑です。
クリアランス調整とは直接関係ない部分も含め、排気側バルブの動きは次の通りです。

先ずカムによって排気側タペットが押されタペットが往復運動をします。排気側タペットはシリンダーヘッドの一部であるタペットホルダーの中を動くので、直線方向に運動が拘束されます。

このタペットの筒の中に、プッシュロッドが入りタペット内面の受けに嵌ります。従ってプッシュロッドのタペット側端もタペットホルダーに方向を拘束された直線運動をします。

一方プッシュロッドのもう一方の端は、ロッカーアームに取り付けられた調整ネジの端に嵌ります。調整ネジもロッカーアームと同じ動きをしますが、このロッカーアームはロッカーアームシャフトの中心を回転中心として拘束された回転方向の運動をします。
従って、プッシュロッドのロッカーアーム側端は回転運動(一定角度の範囲の往復ですが)をします。プッシュロッドの動きはタペットホルダーに拘束された直線運動の軸から振れることになります。
タペットの直線運動をロッカーアームの回転運動に変換していることからクランクとなり、良く言われる「プッシュロッドとベルクランクを用いた複雑な動弁機構」という言い方になるわけですね。
最終的にはこのロッカーアームがバルブを押し下げます

さて、バルブクリアランスを設ける余地ですが、バルブがバルブスプリングに押される、バルブーシートに収まって止まる、その位置までロッカーアームの端を押し上げる、ロッカーアームはその位置まで回る、プッシュロッドが押される、タペットを押す…とこの状態でカムにぎりぎり触れていない状態にすればよい訳です。ロッカーアームに取り付けられた調整ネジでプッシュロッド受けが突き出る長さを調整してやれば良いということになります。
調整ネジという調整しやすい方法がとれるし、また逆に吸気側のようなシムは使えないこともなんとなく理解できます。単純に圧縮されるだけの吸気側に比べ、排気側のタペット内面に嵌るプッシュロッド端は他端の回転運動の影響で受けの中を動いていますから…。

以上のように排気側はカムやタペットすら外さなくてもロッカーアームの調整ネジでバルブクリアランスが調整できてしまいます。

調整が簡単な一方、タペットに問題が出やすいのはこの排気側のようで、特にフロントバンク側がウィークポイントのようです。今回は、大事をとって、フロントバンク、リアバンク全てのタペットを交換しましたが、外されてきたタペット6個のうちどの3個がフロント側だったかは一目瞭然です。多かれ少なかれタペット表面に傷が入っていました。

一番酷いのがこれで(何番か聞いたのですが、忘れました^^;)所謂虫食い状態になってしまってます。

カムがタペットを叩きはじめると、叩いて傷をつけた分クリアランスが大きくなっていき油膜が切れ易くなりまた叩くという悪循環が起こるようです。
タペット音が大きくなり、気になりだしたのは、おそらくこの虫食いタペットの仕業だったと思われます。排気バルブは吸気・圧縮・膨張・排気のエンジン2回転につき一回開閉する、つまり2回転につき一回タペットからカムが離れた状態から接した状態になる瞬間がきます。クリアランスが大きくなるとこのとき「叩く」という状態になるわけですが、例えばアイドリング時750rpmとすると一秒間に6.25回叩くことになります。これがタンタンという単音の連続に聞こえるかということですが、6振動の時計のテンプによって律速される機械の音がカチ・カチ・カチ・カチと聞こえるので、一秒間に6回程度の打音は口で言い表せるぐらいの速さになりますね。

フロント側が酷くなりやすいのは、その傾きによってオイルが保持し難いためということのようですが、実際フロントとリアでエンジンが止まったときにどういうオイルの溜まり方をしているのかを見比べていないのできちんと説明ができません。

とにかくエンジンを回してオイルをいきわたらせることが良いようで、逆に長いこと乗らないで置いておくことが悪いようです。そこで身に覚えがあるのは、リレー不具合によるエンジン不始動で2ヶ月ぐらいエンジンをかけなかったことがあること。あのときに傷が付き始めたのかもしれません。

この車、24ヶ月目24,000kmで一度排気側のクリアランスを調整してもらっています(こっちから無理やりお願いして)。それ以来の調整でした。

今回の感想としては、よほどのことがない限り、吸気側は調整しなくても良いかもしれないということと、排気側は定期的に調整した方が良いかもということですが、一方、リアバンクの排気側タペットは傷がなかったことを考えると、頻繁な調整が必要か否かも考え物です。

おそらく、今回音が酷くなるまでの状態になったのは、フロント側が問題で、これはタペットの状況の酷さから伺えます。つまりフロント側特有の原因でこうなったわけですが、リアだけ頻繁にクリアランス調整したわけではないので調整の頻度が功を奏するか否かなんとも言えません。

おそらくオイルの回り方が原因なのでしょうが、オイルが切れることによってダメージを受けた場合でもクリアランスを詰めることによって被害拡大を防げるならばフロントの頻繁な調整も意味があるでしょうが実際傷によるクリアランス拡大を調整による詰めで解決できるのか否かわかりません。

考え方として、構造上と熱の問題でクリアランスが狂いやすい排気側で、少しでもクリアランスが過大になった場合、フロントバンク側はオイル切れが起こりやすくあっという間に虫食い状態にまで陥るが、リア側は同じぐらいクリアランスが狂ってもオイルが保持されて虫食い状態にまでは達さない…ということも言えるかもしれないので頻繁な調整もまったく無意味でもないかもしれません。

因みに、クリアランス調整は音が出る出ないだけの問題ではなく、バルブの開閉タイミングに密接に絡むので、エンジンの性能にも影響がでてくるはずです。例えばクリアランスが大きすぎるとバルブを開いている時間が短くなり、オーバーラップが設定されたいたのに片側のバルブが早々に閉じてしまう、または、なかなか開かないということも起こり得ます。本来はこういうことが重要なので、音が出ないから良いとか虫食いにならないから良いというものでもないでしょうね。

そして何より、タペット虫食い状態まで進むと、いずれそれを叩いているカムまで磨耗してきて交換になる可能性も出てくるので、音が鳴ったら長くは放っておかないこと、最低でもフロントバンクのタペットの状態の確認と場合によっては交換をしておくことが賢明だとは思います。

このアルファV6SOHCの奥が深いところは、熱の影響が少なくクリアランスの狂いに有利な吸気側は、部品点数も減らし更に狂いが出にくくしてある点で、これの代償としてクリアランスの調整は非常に手のかかる方式になってしまっていること。一方、もともと熱によってクリアランスの狂いが出やすい排気側は、プッシュロッドなどクリアランス精度に不利な部品も抱えているが、調整は非常に簡単に行える(カムカバーさえ開ければそれ以上の分解は不必要)方式を採り、またタペットの交換も吸気側に比較して容易である、という設計になっているという点でしょうか。
吸気側は徹底的にメンテナンスフリーを目指し、排気側はメンテナンスありきでその容易性を狙っている…ということも考慮して設計されているかもしれませんね。
まあ、実際はとにかくカムを中心にもっていきたかったというのが最大の要因でしょうが。

インテークバルブタペットシム交換 エクゾーストバルブタペット交換ロッド調整
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・\19,200(エキゾーストバルブタペット\3,200x6)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・\9,000(インテークバルブシム\1,500x6)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・\4,860(カムシャフトシール\2,430x2)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・\75,000(工賃)
合計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・\10,8060

まともに行うと結構な金額に…実際は他の作業と一緒にやってもらったので、工賃のダブる部分を引いてもらってます。

この記事では、作業をお願いした整備工場から工程の説明のためいただいた画像も使っています。