異星から来た妖精  S・L・エングダール

早川文庫  500円(税抜)

 この方の著作は、私は一冊しか知らないのですが、その一冊は結構お気に入りです。

 SFに良くあるテーマで、後進文化への接触を禁ずる(または制限する)という条文と、接触した文化とで主人公が板挟みになるという物が有ります。善意(あるいはそれ以外)で与えた科学技術が、まだそれを持つに至らぬ社会に混乱を起こす…というテーマは、多くは時間旅行者や、いわゆる宇宙パトロールのお話に多いのですが、私はこの本を読んで以来、同テーマに関してこれより良いと思った作品には未だ巡り合っておりません。かの名作、タイムパトロールなど、異文化への先進技術の接触と、それによる混乱回避を扱った小説は山ほどあるにも関わらず、です。

 これは、読者側が、主人公に課せられている役割や、鉄の規律という物を感覚として理解しきれないせいだと思います。異文化に、先端技術を見せるくらいなら、死ぬべし、という命令を、肌で理解できるのは、軍隊経験者くらいでしょう。本著の主人公は、私達同様、頭では異文化への接触の罪悪を理解していますが、それを肌で理解するまでには至っていない、訓練中の少女です。だからこそ、この手のテーマの物にしては珍しいほどすんなり感情移入でき、最後のシーンなど、涙腺を弛ませずにはいられなくなる訳です。

 主人公の属するのは、文化も文明も成熟した種族です。彼らは異文化の観察、指導に当たる部門に属するのですが、その部門は前述のように、非干渉が原則。ところが、とある惑星で、まだ中世レベルの文化の土着民に対して、恒星間宇宙船をあやつる帝国が植民しようとしている所に出くわします。

 事態を改善すべく、主人公とその父親、婚約者達が、打った手は…。
現地民の聡明な青年と前述の少女、それに帝国の方針に微かな疑問を抱く科学者の3人の視点で物語は進みます。それぞれの目で見た考え、理解、そして友誼が平行的に語られる事で、物語の深みが増しています。こういう、複数人物の視点から、と言うのは読者を混乱させそうで、かじたは憧れているのですができないでおります。

 現在は絶版(だと思う)で、少々手に入れにくいのですが、とってもよい作品です。でも、早川文庫のSFではなくってFTなので、お探しの際はお間違え無く(苦笑)。