八木正徳氏(ひげの人):現在都立新島高校理科教師なので不在
「一粒のドングリから千年の夢を見る」

 赤羽自然観察公園が開園して3度目の秋が訪れた。開園に先立って、平成10年11月に公園南部にある水鳥の池に面した新造成斜面にコナラやクヌギのドングリから育てた苗を植えて森林を創出しようという試みが、北区河川公園課とこの公園造成に関わっていた造園業者と市民たちの協力で行われた。この「ドングリの森」では、なるべく北区の自然として地域に根付いている種を残そうと北区、板橋区からコナラ、クヌギのドングリを市民ボランティアの手で集められ、1年間里親としてドングリから出た芽を育てて苗に仕立てた。手塩に育てたかわいいドングリ苗は新しい自然とはいえ厳しい環境の中で一部は枯死し、思うように成長していない苗も少なくない。しかし、移植後2年目で3年生コナラのドングリ苗の1つに、昨秋小さなドングリが実った。それに気付いた市民ボランティアの方が、そっと母樹の下にドングリを植えたところ今春芽を出してきた。まだまだ新しい自然と思われていたこの公園で、子孫を残す自然の営みが始まっている。
 よく赤羽自然観察公園の自然の森としてコナラの落葉樹林は適当か、気候の温暖化に伴って冬でも落葉しないシイ・カシの常緑樹林が適当かという話を聞く。確かに高校の生物の教科書では、年数が経てばコナラ林がシイ・カシ林に変化していく植生遷移という現象が紹介されている。実際、飛鳥山公園、名主の滝公園とJR京浜東北線沿いの崖斜面周辺にはスダジイの巨樹が散在し、シイ林が拡大しそうに思われる。一方、崖の一部にはクヌギ、イヌシデ、ミズキなど冬に落葉する巨樹も見られるが、コナラはほとんど見られない。では北区にコナラの森林は過去に存在しなかったのだろうか?北区職員でこの問題を熱心に研究されているk氏によると、南関東一帯で縄文時代の遺跡や地中に含まれる樹木花粉化石を調べたところ、北区を含む東京湾内陸部ではコナラ等の落葉広葉樹(コナラ亜属)の花粉がカシ等の常緑広葉樹(アカガシ亜属)の花粉の2倍以多く出現しているとの結果が得られた。即ち太古の北区ではシイ・カシ林よりもナラ林の方が優勢であった考えられ、コナラ等の落葉樹林こそがこの地域で馴染み深い自然といえそうである。
 そしてコナラの樹林がどれだけ生き残るかは、コナラの樹木の寿命にかかっている。現存するナラの仲間で最大・最高樹齢と考えられている樹木は、樹高30m以上、推定樹齢800年以上とされている。環境条件がゆるせば、コナラの寿命は1000年近くなることもと考えられる。コナラの自然林は北海道日高山地、東北地方太平洋側から北関東の山地に小面積ながら残っている。しかもその森林は、コナラの巨樹ばかりから構成されていることは稀で、多種多様な樹木からなる共生社会となっている。つまり、長い年月、厳しい自然環境の中で生き残った数少ないコナラの巨樹は、種類が異なる戦友の他の樹木と共存できる森林社会を形成し、その中で自らの寿命を全うするまで生き抜く。今、そのスタートに私たちは立会い、一粒のどんぐりが描く壮大な森林の夢を見守っているといえよう。

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