その2 プレゼント暴力







■実験準備室■


職員室に望が呼ばれた。
もうひとり位連れて来いと教師が言うので、普賢と出向いた。
なんのことはない、次の授業で配布するプリントの山を教室に運べという指示だったが、今日の教室の休み時間に息苦しささえ覚えていた望にはありがたい仰せだった。
大量の紙を抱えて、二人並んで歩きながら話し出す。
「なんだかんだ言っても、しばらくおやつに不自由しないのはウレシイよね」
「来月のことを考えたらわしはそれどころではないよ・・・」
破産するかもしれぬ、と真顔で望が俯く。
結局、1限目が始まる前に、普賢が用意したデパートの大判の紙袋は一杯になってしまった。昼休みや放課後の第二波、第三波を考えれば望の言葉は真に迫る。
「……イザとなったら "積み立て" 少し崩してもいいよ?」
「…それだけはしたくないのう……」
二人そろって思わず天井を見上げる。
「……今日の結果次第だね…」
普賢がそう呟いたところで、教室に着いた。
見ると、望の机の上にはまた3個ほどの包みがちょこんと乗っていた。
「おいしいチョコレートだといいね…望ちゃん」
がっくりと肩を落とす望に、慰めにもならないと解っていても普賢はそう言わずにいられなかった。





昼休みは、逃げた。
逃げ切れるものではないと知ってはいたが、逃げずにいられなくてさっさと弁当を掻きこんで二人は化学実験室に隣接する標本室に駆け込んだ。
化学実験室では、顔なじみの実験助手が午後の授業の準備をしていて、望と普賢が生物標本を見たいと言うと快く部屋の鍵を開けてくれた。ホルマリン標本や骨格標本の棚が所狭しと並ぶその部屋に入って一息つくと、普賢がくすくすと笑いだす。
「…お疲れさま、望ちゃん」
「……どうせ戻ったらまたいくつか届いておるのだろうがのう…」
ふう、とため息をつく。今ごろは自分を探している女子生徒もいるのだろう。
「……でもやっぱり、二人して姿消してるのあんまり良くないかもしれないから、僕は先に戻ってるね」
至極冷静に普賢が言う。
「望ちゃんは、ここで休んでて」
「……うむ…」
切ないくらい、疲れていた。へたへたと床に座り込んで、望は、ガラス棚の化石標本に気を取られている普賢を見あげている。
「…帰りに銀行に寄って、それからあとはうちでゆっくり相談しようよ」
「…そうだのう…」
実際は、経済的負担より、贈物に込められた想いの重さを負担に思う。もっと気軽にやりとりできるものだったら甘党の望にとって年に一度のこんなお祭り騒ぎは決して嫌なモノではなかったかもしれない。余りにも周囲が真剣すぎて、それが辛い。
「じゃあ僕、図書室に行ってるね」
そういい残して、普賢は標本室を出ようとして、
「ねぇ…?」
振り返って首をかしげる。
「望ちゃん、お昼と帰りにもらう分のこと考えたら、僕のあげた紙袋だけじゃ絶対入れるもの足りないよ?…何か持ってる?」
「……カバンの中に同じ紙袋が1枚入っておるよ」
できれば普賢には知られたくなかったけれど。
「ああ…やっぱり持ってきてたんだ。良かった」
「……毎年のことだからのう…」
ため息混じりに言う望に、普賢はにっこりと笑う。
「予測が甘かったなぁ。2枚で足りると思ってたなんて」
「……2枚…?」
「望ちゃんが1枚くらい持ってくると思ってたから、僕も1枚でいいと思ってたんだ」
そこまで見越しておったのか、と半ば呆れたように感心する望に、普賢はもういちどそっと笑うと、今度こそ標本室を後にした。







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