その2 プレゼント暴力







■教室■


教室の個人ロッカーと机の上は更に惨状を呈していて、山積みの今にも崩れそうなプレゼント包装の数に、望は一瞬めまいさえ覚える気がする。
「……返す方の身にもなってくれぬか……」
切実な望の小声が耳に届いたのか、くすっと普賢が笑う。

教室には今日に限って早く登校してきた女子生徒たちがたむろして遠巻きに望を注視している。
「今のうちにチェックして、リスト作っておいた方がいいよ。溜まると後が大変だしね」
毎年恒例のことなので、普賢もすっかり心得ている。
「…そうするか…」
差出人不明のままのモノや、うっかり忘れられてしまうモノがあっては困るのだ。


毎年、差出人不明のプレゼントは少なくなく、「目的が愛のコクハクなら差出人が解らないことには本末転倒もいいところではないか」と至極もっともな愚痴をこぼしながらも、律儀な二人は探偵よろしく差出人を探さなくてはならなかったりする。


「……学年とクラスと氏名をプレゼントの見えるところにはっきりと書くことを義務化したい…」
「望ちゃん…」
差出人の名前やメッセージが全くないものだけではない。例え名前が書いてあったとしても、どういう思考回路がそうするのかロマンティシズムに走りすぎるのか架空の名前を名乗られていたり、抽象的な示唆だけだったりしては始末に負えない。はっきり言って不気味でさえある。
無粋なことだと解ってはいるが、包みに名前があればそれをチェックし、無ければ包みを開いてカードなりを探すという作業を開始する。

名前を控えるために机上にレポート用紙を広げたところで、背後から声がかかる。
「……あのう…」
教室が、ふいにざわめく。
望が振り返ると、隣のクラスの女子生徒が佇んでいる。
見覚えている訳ではなく、校章の刻印を見て即座にそう理解しただけなのだが。
「これ、受け取ってください…」
消えそうな声と共に差し出される小さな包み。
話すどころか挨拶を交わした記憶もない相手だから、きっと渾身の勇気を奮っているのだろう。包みに添えられた手が、緊張で少し震えていた。
「……済まないが…」
望は、本当に申し訳なさそうに首をかしげて微笑む。
「…どこかにおぬしの名前は書いてくれておるかのう?」
おそらくは最初の一言で拒絶を覚悟していたのだろう、その女子生徒は少しの間思わぬ科白に言葉を失い、それから慌ててその手を引っ込めた。
「…あ…忘れてた!!……書いてない!」
「ではこれで書いておいてくれぬか?」
相手が狼狽して我を失う前に、望が持っていたペンを差し出す。その絶妙なタイミングのフォローを端で眺めながら、こういうトコロが女の子にもてるんだろうなぁ、と普賢は望のことを思う。優しくて、よく気がついて、決して相手を傷つけない。


そうこうするうちに、始業の時間が近づいてくる。
いつもとは違うざわめきに満ちた教室で、望は次々と訪れる女子生徒たちに頻繁に作業を中断されつつも、桁違いの量のプレゼントの贈り主のリストを作りながら、普賢はそんな望の横顔をぼんやりと眺めたり読みかけの文庫に目を通したりしながら、やがて始業のベルを聞いた。







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