その1 Little Ms Regent







■記憶(2)■


ああ…うん。ちっちゃい頃からよくしゃべる子だったわよ。
ふだんわたしとふたりきりのことが多かったから、のべつまくなししゃべってたわよ。

そうね…いまとあんまり変わらないんじゃない?


変わったといえば、アナタが隣に来てからね。
何が…って、あんまりあの子の面倒見なくてよくなったのと、あとは毎晩毎晩毎晩毎晩…アナタの話ばっかり聞かされるようになったってことぐらいよ(怒)。
フゲンがどうした、フゲンと何を話した、フゲンにこんなことを言ってみた、フゲンとどこそこへ行った、フゲンに何かをもらった…フゲン、フゲン、フゲン、って。聞いてるこっちが頭おかしくなるんじゃないかと思ったわ。
それも最初のうちだけかと思って我慢していれば、いまだに話といえばアナタとののろけ話ばっかりなのよ。もう、うんざり。
…って、ちょっと、笑いごとじゃないのよ!


しまいに「フゲンとケッコンする」とか言いだした時には、わたし、フゲンってどんなにカワイラシイ女の子なのかしら、って思ってたのよ。ほんの3日間くらいだけどね。
3日って…って?
だって、アナタとオトモダチ…っていうか、あの子はもう恋人気取りだったけどね…になってから、3日でアナタに会うことになったんだもの。覚えてるでしょ?
はじめて会ったとき…え?
覚えてないの?!(怒)

まあいいわ。
で、連れられてきた「フゲン」ってば、妙に派手な服着た、うすぼんやりした男の子じゃない?
ちょっと理解に苦しんだわねぇ…おまけにあの子はアナタのコト「妖精だ」なんて言ってたんだし。

ねぇ、アナタホントに覚えてないの?
はじめて会ったその日にいきなり人の顔に「お化粧」とか抜かしてクレヨンでぐりぐり信じられないような色塗って帰ったの、ホントに覚えてないのッ?!(怒)


……そうそう。
あの子、日記つけてるのは知ってるわよね。
わたし、何度か読んだことがあるんだけど、アナタに会ってからは隅から隅までアナタのことばっかりなのよね。ため息がでるほどラブ全開で、読んでる方が疲れるわね、アレ。
ちゃんと最初の一冊から残ってるわよ。いまは何冊目なのかしらねぇ。


朝からの雨がようやくあがった日曜日の午後。
普賢の部屋のベランダ越しに、玉虚寺の甍を眺めながら話し続けていた市松人形は、そこでふっと息をついた。
望は、祖父に言いつけられた檀家への届けもので、いまここにはいない。
話し相手の普賢は、小さなコタツテーブルを挟んだ向こう側で、縫い物をしていた手を止めた。
「いちまさん、お茶でも飲む?」
「あ、うん。いただくわ。」
物理的に人形がお茶を摂取できるわけではないのだが、そのあたりはキモチの問題なのだろう。
「でも、アナタがいま飲んでる甘ったるいミルクティーはイヤよ。日本茶にしてね。」
「ハイハイ。」
いちまさんはワガママだなぁ、と普賢がくすくすと笑う。







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