その1 Little Ms Regent
■記憶(1)■
もう、ずいぶん昔のことだから、いつ・どこで生まれたかなんて覚えていないの。 でもたぶん、京都あたりの生まれじゃないかしら。 どうしてここにいるのかもよく覚えていないな。 お蔵のなかに、わたしがもともと入っていたハコがあるんだけど…そのなかに手紙が一緒に入っていたと思うの。そこに詳しく書いてあると思うわ。 さあ…興味がないから自分で読んだことなんかないわよ。 あのハコだって、どこにあるのかもう解んないし。 「望ちゃん」?…ああ、坊主の話するんだったわね。 あの子が覚えているかどうか知らないけど、あの子が赤ちゃんだった時から一緒に居るわよ。 えーっとねぇ… ずっとお蔵暮らしで退屈でね。 それはそれで悪くはなかったんだけど、ある日、あんまり退屈したんで、お寺の本堂の方を散歩していたの。 …どうやって蔵から出たかって? 女の子にそんなこと聞くもんじゃないわ。 お庭は咽返るような緑だったわねぇ。ちょうど今ごろの季節だったんじゃないかしら。いいお天気でそこらじゅう明るくて、ちょっと涼しい風が吹いていたわ。 お堂ではジジイがお経をあげてて、食堂では赤精子がお野菜洗っていたっけ。 で、二階のお部屋…そうそう、いまもあの子の部屋になっているところでね、あの子がすうすう眠っていたのよ。 つついてみたんだけど起きないし、呼んでみても起きないから、枕もとに座ってじっと見てたの。 ちっちゃくてかわいくて、すごく気に入ったものだから、そこにずっと居ることに決めたのよ。 うーん…別段、誰も咎めなかったわよ? あの子は目が覚めたら、さっそくにっこり笑ってくれたし。 ジジイは、他の誰かがあの子のために持ってきた人形だと思ったみたい。 ほら、あの子って怖がりじゃない? ちっちゃい頃からオバケがコワイって、よく言ってたのよ。 そんなもの居るわけないじゃない。バカバカしいって何度叱ったことか…。 だから、夜寝るときはずっと側にいてあげていたの。 夜中にトイレに行く時も一緒。 「オバケこわいの」って……何が出るって言うのかしらね。 |