その2 プレゼント暴力







■陳トウ関■


帰路の途中で、ふたりは必ず商店街の洋菓子店に顔を出す。
幼い頃からの顔なじみで、それなりにあちこちで様々なケーキを口にしてきたけれど、いつもここのケーキが一番おいしいとふたりとも思っている。
派手な店構えではないが、こざっぱりとした内装が店主の人柄を偲ばせる小さな店の扉を、両手が塞がった望の代わりに今日は普賢が開く。

バレンタインデーの名残のざわめきが残る店内には、この時期だけ店頭に並ぶチョコレートケーキやトリュフを買い求める女性でまだ混みあっていて、望と普賢はチョコレートの甘い匂いにうっとりする間もなく人垣に埋もれてしまった。
「……これから買う人もいるんだね」
夜にデートするのかな、と普賢が小声で望に囁く。

「あ、普賢くん、呂望くん」
忙しくレジと厨房を行き来していた店主の李殷氏が、ふたりを見つけて声をかけてくる。
「ゴメンね、まだちょっと忙しくて…!」
愛想よく接客する合間に、殷氏がゴメン、と手を合わせる。望と普賢はにっこりと笑顔を返して、人の波が過ぎるのを店の隅で待つことにした。昨日、必ず寄ってほしいと念を押されていたのだ。

「はい、これ。…それにしても呂望くん、凄い荷物じゃない……」
店内にはまだ3人ほど客がいたが、レジではようやく学校から帰ってきた長男が、母譲りの愛想の良さで彼女たちに応対している。
一息ついた殷氏が、辞書ほどの大きさの箱を普賢と望にひとつずつ差し出したのだが、望の両手の荷物の量にさすがに驚いたのだろう。
「……持てる?…」
「僕が持ちます。ありがとう、李さん」
箱の中身は解っている。望と普賢のために焼いてくれたチョコレートケーキ。
バレンタインデーに、特別な得意先にだけ殷氏が配っているものだ。
付き合いも長いうえに上得意の望と普賢には、バレンタインデーといえば小さな頃からこのケーキのプレゼントがつきもので、毎年とても楽しみにしていた。
「あとで、普賢くんのうちにおじゃまするわね」
戸口まで見送られてぺこりと頭を下げた普賢と望に、殷氏が声をかける。
「今日、忙しかったから太乙さんにナタク預かってもらっているの」
「あ、それじゃあ後で僕たちが連れてきますよ」
お願いするわね、と手を振る殷氏にもういちど会釈して、ふたりはあと僅かの家路を歩き出した。







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