その2 プレゼント暴力
■帰路■
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台風一過、望がプレゼント攻勢と告白の嵐から開放されたのは午後5時にもなろうかという時間で、おそらくこれで最後の一人とおぼしき見たこともない3年生の女子生徒からのプレゼントを受け取った望が教室に戻ってくると、普賢は机にうつ伏せて眠っていた。 まだ冬の、日暮れは早く、もう薄暗い教室に他には誰もいなくて、校舎の外から響く部活の生徒たちの声が遠く聞こえてくる。 「…普賢、こんなところで眠ると風邪をひくぞ」 「……うん」 待ちくたびれて眠ってしまったのだろうと思うと、心底申し訳ないと思う。望の済まなそうな顔をぼんやり見上げて、普賢は覚めきらない目をこすりながら 「…あのね……考えてたんだけど…」 「……うん?」 「荷物、整理しないと…。手当たり次第に詰めちゃったけど、全部は持って帰れそうにないじゃない?…今日、要る分だけ持って帰れるようにしようよ。」 「……そうだのう…」 誰もいない教室は静かで、ふたり掛りでプレゼントを仕分けする紙のかさこそという音だけが響く。 「これがこれから配るプレゼントだったら、望ちゃんサンタみたいなのになぁ…」 「……一体いくつあるのだ…」 「……リストで数えてざっと130個くらい」 気の遠くなるような数字をさらりと吐いて、普賢は手際よく分類を続けている。 大きくて軽い包みはおおかた手編みのセーターで、形の不規則な包みはぬいぐるみか何かだろうか。 見回りの教師が教室をのぞきに来て、暖房のスイッチを切った。 少し気の毒そうな苦笑いを浮かべて、望と普賢に「大変だなぁ」と声をかけて去っていく。 「……かさばるのが多いね」 至極冷静な普賢が、今だけは少し恨めしい。 急に冷え込んでくる教室の片隅でこんな作業に追われている自分たちが、ふと切なくなって望はこの日何度目かの大きなため息をついた。 銀行のAТMは通帳記帳の時間を過ぎてしまい、普賢がカードで残高照会の控えを取り出している。 バーゲン帰りのOLよろしく両腕に一杯に膨らんだデパートの紙袋を下げてやや憮然とした様子の望と、その控えを交互に見て、普賢は少し済まなそうに眉をひそめた。 「……頑張ろう、望ちゃん」 「………どのへんでナニを頑張るのだ……」 それ以上は普賢が言わなくても解る気がした。 望が事態を理解しているのは普賢も百も承知だったから、そのまま言葉を失ってしまう。 学校を出てから、この小さなキャッシュコーナーまで歩く道のり、ふたりはずっとホワイトデー予算のことをあれこれ話し合ってきていた。どう考えても望の普段の収入(お小遣いとアルバイト代)で賄えるはずもなく、そうなったら "積み立て" を崩そう、というところまではなんとか合意にこぎつけた。 望は、最後までそれを嫌がっていたのだけれど。 いつだったか、多分冬の寒い日だったと思う。 普賢が銀行のパンフレットから新しい口座の案内を見つけ出してきて、それをふたりの貯金にしようと言い出したのが発端で、この"積み立て"貯金が始まった。本来は夫婦やそれに準ずる生活を営む大人向けの口座らしく公共料金の引き落としの案内や給与振込みの案内が詳しく載っていたのだが、そんなことよりも「おふたりの名前が通帳に入ります」という説明書きがひどく気に入って、ふたりはすぐにその銀行の窓口で手続きをしたのだった。 そろそろ4年くらいになるだろうか。 ふたりで太乙の誕生日にプレゼントを買ったり、少し遠出のデートをするのに使ったりと、 "積み立て" と呼ぶにはなかなかお金の貯まらない口座だったけれど、ふたりにとっては特別な貯金で、望はできることならこんなこと―――ホワイトデーのお返し予算、などにこの口座を使いたくはなかった。 「でも、背に腹はかえられないでしょ?」 普賢にぴしりと言われて、悪あがきも諦めたのだが、それでもまだ心には何かがわだかまっている。 「……全額おろしても全然足りない…」 普賢の言葉は予想通りで、望はがっくりと肩を落とした。 そんなに重くないはずの紙袋がずっしりと腕に重い。 「……どういう計算なのだ?」 「望ちゃん、ひとりあたりいくらくらいでお返しするつもりだった?」 「………300円…」 もらったプレゼントやチョコレートの平均単価からすればあんまりな回答かもしれないと普賢も望も同時に思うが、この数をこなすことを考えたらひとり300円は大金だ。 「…300円が、ざっと200人で6万円だよ?」 現実は実に厳しい。 「……今、残高が3万円で、望ちゃん個人の預金なんて当然残ってないだろうから、来月のお小遣いとバイトで併せてあと3万円……がんばらないと…」 「……普賢……」 うなだれる望に、普賢は仕方ないよ、と微笑んだ。 仕方ないでは済まされない気持ちが望にはあるのだが、言葉を捜すうちに何も言えなくなってしまった。 |