その2 プレゼント暴力







■終業■


終業のホームルームを待つ教室は、相変わらず不思議なざわめきに満ちていた。
何かを真剣に語り合う女子生徒や、もらったチョコレートの数について噂し合う男子生徒の声が行き交い、時折笑い声がさざめいたりどよめきが起こったりもしている。
「チョコレートの年間消費量の3割近くって、バレンタインだって言うけど、これ見てるともっと割合い大きい気がするね。」
机にだらしなく突っ伏して顔の見えない望に、ふいに普賢が話し掛ける。
「……この祭りがないと業者はやっていけんのかのう……」
「バレンタインなんてなくなればいいのに、とばかりも言ってられないってこと?」
「……菓子屋の陰謀ではないか……」
「…まあ、みんなが楽しいならそれでいいんじゃない?」
楽しい人ばかりじゃないのも解っているけどね、と苦笑いしながら、普賢はどこから手に入れてきたのか特大の紙袋とカバンと同じ大きさくらいの書店の紙袋とをがさがさと広げ始めた。その音に望がようやく顔を上げる。
「……なんだそれは?」
「多分袋それだけじゃ足りないと思って図書室でもらって置いたの。あ、小さいのは僕用だよ」
望と普賢がそれぞれ持参したふたつの袋は、6限目が終わる前に既に望への贈物で一杯で、どう詰めてもこれ以上は入りそうになく、リストのレポート用紙は5枚目にさしかかろうとしていた。
「……それより、どうやって持って帰ろうね?」
「………何故学校はチョコレートの持込と配布を禁止せぬのだ…」

小学校では、バレンタインデーにチョコレートを学校に持ってくることを禁止していた。児童の自主性を無視するのは如何かと言う意見もあったようだが、望にとっては実にスバラシイ規則だった。
もっとも、そのくらいでへこたれる女子ばかりである筈などなく、小学校5年生のバレンタインデーを皮切りに、この日の望へのプレゼント攻勢は衰えたことなどなかった。

ただ、あの頃はまだもらう数もずっと少なくて、チョコレートの意味もよく解らなくて、もらったチョコレートを普賢とふたりで食べるのがなんだかとても楽しかった。


「帰り道に待ち伏せされたり、家までチョコレート届けに来られたりする方がいい?」
「……うう」
学校へ持ってくるな、と言われれば家まで届けに行けばいいだけのことなのだ。
そんなことぐらい10歳やそこらの子供にだって解るのだから、禁止令が出たところで、今よりもっとオソロシイ事態を招くだけに過ぎない。
「望ちゃん……」
普賢が何か言いかけたその時、ベルが鳴った。
最後の波は、放課後にやってくる。







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