■■君のとなりで。■■


presented by HIMEMIWA leida




初秋



膝をかかえてまるく座ったまま、彼はじっとしていた。
後ろ姿は、なにかに懸命に耐えていることが解って、痛々しかった。
(……どうしようか…)
声をかけていいのかどうか、ずっと悩んでいる。
いずれの洞庭から流れてくるのか、風に黄色い木の葉が翻って舞う。

どこまでも高く、蒼い天空のまんなかでうずくまる彼の背中に、ひとひらが音もなく降りて留まった。


「…望ちゃん……」
離れたところからそっと呼ぶと、肩がはねて、彼は振りかえる。
「……普賢…」
ふわりと笑う。背中の枯葉は、やはり音もなくすべり落ちて―――ふいにとおりすぎた風に乗っていってしまった。

「…そこに、行ってもいい?」
そう尋ねる前に、彼は少し座る位置を変えて普賢のための場所を空けていた。

もう、膝を抱えてはいない。





それは、彼がひとりでいるときの癖だった。
普賢はもう、随分以前から気がついている。
寂しいとき、怖いとき、悲しいとき―――いつも
膝を抱えて、小さくまるくなっている、彼。





空の岩塊から眺める雲は、草原に遊ぶ羊の群れに似ている。
「今日は、大陸が見えるんだね。」
雲の切れ目からのぞく緑の大地。短い夏の、鮮やかな生命の色。

「ずっとここにいたの?」
「さっき…きたところだ」
石の上に並んで座っている。
触れ合う肩のやわらかな温かさに、たぶん、彼も安心するのだろう。
小さな木の葉が、幾枚も目の前をとおりすぎてゆく。

風が強いね、と普賢が呟くと、もうすぐ秋なんだろう、と彼が応える。
崑崙で迎える二度目の秋―――彼と出会って、もうどれだけの月日が過ぎたのだろう。





そっと、膝を抱えてうずくまってみる。

その夜、月の見える窓の下で、普賢は彼を真似てみた。
ちいさく、小さく固く膝を抱いて目を閉じる。
少しだけ安心するのはどうしてなんだろう。

彼と同じかたちをしているから?

それから、それが普賢の癖になった。







晩夏




「でも……望ちゃんはいつか、戦いに身を投じる気がする」

隣に腰をおろした普賢は、そう言うと、そっと自分の膝を抱えた。
「心の奥に、ギラギラ光る刃があるもの」
少しずつ小さく固くなってゆく体。
すぐ側に、彼がいるのに。

そんな普賢の姿を見るのは初めてのはずなのに、どこか懐かしい痛みが胸を締めつける。
「…普賢?」
寂しそうな横顔。水面をみつめる瞳は微笑んでいるのに、今にも泣き出しそうにみえる。

「……普賢、何を考えている?」
寂しいとき、不安なとき、悲しいとき―――昔、そんな風に膝を抱えてまるくなっていた自分を太公望は思い出す。
もう、ずっとずっと昔―――普賢と出会って何日かが過ぎた、あの日のことも。



「…望ちゃんのことだよ」
顔をあげて太公望の方を向くと、間近でみつめてくる瞳と目が合った。

そして、そっと口付けられる。

「…どうしたのだ?」
覗き込む彼の空色の瞳は、あの日の蒼穹のようで。
寂しいのか、不安なのかと言葉にはしないけれど、心配そうに問いかけてくる。
普賢はちいさく頭をふって、なんでもないよ、と笑ってみせた。膝を抱えていた腕を解いて、ふわりと太公望の頬に指先で触れる。
「ずっと、側にいるね…」

「キミが、いつか戦いに行くときも」
声が少しだけ掠れていた。


「その時には僕もキミの横にいるよ…」


水面に魚が跳ねる。
澄潭に広がる波紋のように心の底に沁みわたってゆくそれは、不安なのだろうか、それとも彼と一緒にいられる安心感なのだろうか。
そっと肩を抱き寄せられて、ひどくあたたかな気持ちになった。






ゆるやかな川の流れに、花びらが浮かんでくるくるとまわっていた。


夏の終りの午後の、あのときから膝を抱えてまるくなることは無かったのだけれど。












◆普賢がひとりになったとき(聞仲と対決する直前ね)、膝を抱えている
彼の姿がひどく気になっていたのです。ああやって小さくなってナニかをじっと
我慢している姿がとても幼げでいじらしく見えたんですよ。
回想シーンの望ちゃんと並んで座ってた普賢も、後ろ姿でしたが
膝抱えてましたよね。ああ、あれ普賢の癖なんだな〜、とか考えたりして。






■モドル。■