・「対応分析結果」まとまる
74年(昭和49年)3月、行政管理庁行政管理局は、情報処理学会試案以下の8つの漢字表・文字セットをもとに、
「行政情報処理用標準漢字選定のための漢字使用頻度および対応分析結果」(以下「対応分析結果」)をまとめた。その上で「行政管理庁基本漢字」を選定した。
漢字表の名称 漢字数 作成昭和年月
(1) 標準コード用漢字表(試案) 6086 46年10月
(2) 6社協定新聞社用コード表(CO-59) 1985 34年8月
(3) 内閣調査室収容漢字表 3181 48年8月現在
(4) 科学技術情報センター収容漢字表(JICST)1864 48年8月現在
(5) 大蔵省主計局収容漢字表 4276 48年8月現在
(6) 国立国会図書館収容漢字表 3956 48年8月現在
(7) 日本生命収容人名漢字 3044 48年8月現在
(8) 国土行政区画総覧使用漢字 3251 47年度
行政管理庁は、上に挙げた八つの漢字表を収集し、官報での出現頻度を調査するなどして「行政情報処理用標準漢字」を選定している。「行政情報処理用標準漢字」と「行政管理庁基本漢字」とは、同じものと考えておいてよい。(細かいことをいうと、「対応分析結果」を出した次の年に、「行政情報処理用基本漢字に対する符号付与に関する調査研究報告書“付表”」を出すのだが、これに記載されるのが「行政管理庁基本漢字」である)(加藤氏の本に対する池田証寿氏の訂正に基づく)
・通産省、JIS漢字コードを開発するように工業技術院に指示する。
・工業技術院、開発実務を日本情報処理開発センター(現・日本情報処理開発協会)に委託する。74年4月、「漢字符号標準化調査研究委員会」(74年委員会)(森口繁一委員長)発足する。
2.原案報告される
「情報交換のための漢字符号の標準化に関する調査研究報告書」(51年3月日本情報処理開発センター)
巻末符号表−区点方式94×94
「この四つの漢字表にあれば78JISに採用されているといって差し支えない。」(池田)
漢字表の名称 漢字数 作成昭和年月
「標準コード用漢字表(試案)」 6086字 46年10月
「行政管理庁基本漢字」 2817字 50年3月
「日本生命収容人名漢字表」(人名) 3044字 48年8月現在
「国土行政区画総覧使用漢字」(地名)3251字 47年度
「第1次規格が依拠した主要な4漢字表(情報処理学会標準漢字コード表、行政管理庁基本漢字、日本生命人名漢字表、国土行政区画総覧)は、すべて
資料2を入手先としている。」(97JIS解説、これでは4漢字表を並列しているので、読み間違えやすい。資料2とは、「対応分析結果」のことで、78JISの原案委員会の検討資料である--蛇口)。
4.83JISの暴挙?
JIS X 0208-1983(旧称−JIS C 6226-1983)
- 39文字の特殊文字の追加、32文字の罫線文字の追加
- 4文字の漢字の追加
- 22組の漢字について、第1水準と第2水準との間での入れ替え、4文字の第1水準への追加に伴う第2水準への移動
- 300文字の漢字の字形の変更
83年版は「新JIS」と呼ばれるが、改訂の少ない90年版を合わせて「新JIS」と呼ぶことが多い。
「処理」p.170
特徴−−78JISの愚行を修正した。「新字体を第1水準、旧字体を第2水準にほぼまとめた」
「電脳社会の日本語」参照。漢字情報は「ATOK12」による。p.114
(1)区点(字体)の入れ替え
22組44文字−78JISの異体字関係にある22組について、第1水準と第2水準間でコードを入れ替えた。「社会」p.116。「字典」p.256。それまでの電子文書とのつながりがなくなった。
附属書1表3 22組の異体字関係にある漢字
鯵=ソウ/あじ。うおへん・さかなへん。19画。
JIS:3033、シフトJIS:88B1、区点:01619、Unicode:9BF5
鰺=ソウ/あじ。うおへん・さかなへん。19画。
JIS:724D、シフトJIS:E9CB、区点:08245、Unicode:6867
鴬1809鶯8284、蛎1934蠣7358、撹1941攪5788、竃1986竈6762、潅2035灌6285、諌2050諫7561、頚2359頸8084
砿2560礦6672、蕊2841蘂7302、靭3257靱8055、賎3308賤7645
壷=コ/つぼ。さむらい。11画。
JIS:445B、シフトJIS:92D9、区点:03659、Unicode:58F7
壺=コ/つぼ。さむらい。12画。
JIS:5464、シフトJIS:9AE2、区点:05268、Unicode:58FA
砺3755礪6674、梼3778檮5977、涛3783濤6225、迩3886邇7778、蝿3972蠅7404
桧=カイ/ひのき。きへん。10画。
JIS:4930、シフトJIS:954F、区点:04116、Unicode:6867
檜=カイ/ひのき。きへん。17画。
JIS:5B58、シフトJIS:9E77、区点:05956、Unicode:6A9C
侭4389儘4854、薮4489藪7314
篭=ロウ/かご、こ・める、こも・る。たけかんむり。16画。
JIS:4F36、シフトJIS:9855、区点:04722、Unicode:7BED
籠=ロウ/かご、こ・める、こも・る。たけかんむり。22画。
JIS:6446、シフトJIS:E2C4、区点:06838、Unicode:7C60
(2)漢字追加とそれに伴う区点(字体)変更
人名用漢字4字−−4文字が加わり、78JISの例示字体(旧字体・後項の4文字)は第2水準漢字の最後尾の区点に移動した(78JISは、8区〜15区、84区〜94区を"自由領域"としていたが、その84区に)。
(98VX-1986は、78JISのため、堯は22区38点、尭は84区1点であり、JIS7400番台は文字が割り当てられていない。AR-2400は、83JISのため7400番台は以下の4文字のみ割り当てられている。)「字典」p.257
附属書1表5 5組の異体字関係にある漢字そのうちの4組。
尭=ギョウ/たか・い。つち。8画。
JIS:3646、シフトJIS:8BC4、区点:02238、Unicode:5C2D
堯=ギョウ/たか・い。つち。12画。
JIS:7421、シフトJIS:EA9F、区点:08401、Unicode:582F
槙=シン、テン/まき。きへん。14画。
JIS:4B6A、シフトJIS:968A、区点:04374、Unicode:69D9
槇=シン、テン/まき。きへん。14画。
JIS:7422、シフトJIS:EAA0、区点:08402、Unicode:69C7
遥=ヨウ/はる・か。しんにゅう、しんにょう。12画。
JIS:4D5A、シフトJIS:9779、区点:04558、Unicode:9065
遙=ヨウ/はる・か。しんにゅう、しんにょう。14画。
JIS:7423、シフトJIS:EAA1、区点:08403、Unicode:9059
瑶=ヨウ、たま。おうへん・たまへん。13画。
JIS:6076、シフトJIS:E0F4、区点:06486、Unicode:7476
瑤=ヨウ、たま。おうへん・たまへん。14画。
JIS:7424、シフトJIS:EAA2、区点:08404、Unicode:7464
(3)300文字の字形変更
300文字が字形変更された。多くの78JISの例示字体(旧字体)が、当用漢字字体表に準じて簡略化され、同じ区点に置かれた。78JISの例示字体(旧字体)は、83JISの文字セット(例示字体)から消えた。字形の変更は、「字典」では
78などと記してあるが、一覧表は見当たらない。詳細は「字典」xviii。字形の変更と称しているが、大きく異なる例もある。
「78JISでは、1)写植フォントになかった文字は、合成で作字したが、デザイン方針が統一されていなかった。2)常用漢字以外に新字体が採用されなかった。
そこで、83JIS、90JISでは、1)デザインを統一しようとした。2)常用漢字以外の多くの例示字体に、常用漢字に準じて部分字体に新字体を採用した。結果、これまでとデザインの異なる多数の字形が例示字体となった。」
しかし、該当する字体の全てについて、変更されたわけではない。例えば、捗3629-u6357、瀕4146-u7015は、常用漢字の頻4149-u983Bからの類推で、点のある「少」に変更されたが、常用漢字に賓があるが、常用漢字に浜があるためか、濱6332-u6FF1のままである。嬪5345-u5B2Aなども変更されていない。
97JISでは、それらを分類し、それから常用漢字のデザインの違いや78JIS制定時のメモを参考に、包摂規準を作り上げた。同じ規準の関係にある複数の字形で、すでにそれぞれに区点が割り当てられている場合は、包摂規準の適用外とした。
ただし、97JISで6.6.4の29組の例外−−ABどちらの書体でもいい−−を設けた意図が不明だ。
97JISの包摂規準を参考に、字形変更を分類してみた。
*は連番に例示されていない漢字
1)包摂規準があるもの
戸の入り。右→左=連番5扉4066-u6249
//→ソ=連番7嫌2389-u5ACC
足の左。エ→・連番9昂2523-u6602
ハ→ソ=連番11*酋2922-u914B、*猷4518-u7337、*楢3874-u6962、*噂1729-u5642、樽3514-6A3D、*鱒4380-u9C52、*溢1678-u6EA、鄭3702-u912D
小→ツ=連番16*哨3005-u54E8、*梢3031-u68A2、*鞘3068-u9798、*蛸3493-u86F8、*屑2293-5C51、
*隙2368-u9699、廠3019-5EED、*蔽4235-u853D、*瞥4245-u77A4
ノノ→ン=連番18翰2045-u7FF0、*翫2069-u7FEB、摺3202-u647A、煽3290-u717D、*翠3173-u7FED、*謬4121-u8B2C
羽。ノノ→ヨ=連番19*濯3485-u6FEF、擢3707-u64E2
ノノ→ン=連番20鰯1683-u9C2F、溺3714-u6EBA
爪→ノツ=連番21*淫1692-u6DEB、采2651-u91C7、*媛4118-5A9B
点二つ→ン=連番25柊4102-u67CA
横線→点=連番32杓2861-u6753、灼2862-u707C、
月。2点→2棒=連番36*煎3289-u714E、*棚3510-u68DA、*廟4132-u5EDF、*愈4492-u6108、*癒4494-u7652
告。抜ける→抜けない=連番42鵠2584-u9D60
唐。抜ける→抜けない=連番43塘3768-u5858
周。キ→土=連番44凋3592-u51CB。
偏。横棒出る→でない=連番52那3865-u90A3
横棒、抜ける→抜けない=連番54慧2337-u6167、*鱈3513-u6C48
・→己=連番67*巻2012-u5DFB、倦2381-u5026、捲2394-u6372
巳→己=連番70*鞄1983-9784、*庖4289-u5E96、*泡4302-u6CE1、*巽3507-u5DFD、*撰3281-u64B0
ソ→×=連番72諺2433-u8AFA、薩2707-u85A9
旁の始点。交差する→しない=連番74恢1890-6062
旁の足の構えの始点。交差する→交差しない=連番75檎2473-u6A8E
ヒの縦線に交差する→しない=連番77*靴2304-u9774
七→ヒ=連番78*鴇3830-u9D07
全の2画の起筆強調→普通=連番79栓3282-u6813、詮3307-u8A6B
・→冊=連番94柵2684-u67F5、珊2725-u73CA
母→毋=連番98晦1902-u6666
ソ−−=連番99黛3467-u9EDB
ソ→ハ、ソ→−=連番101噌3325-u564C
免。続ける→続けない=連番102挽4052-u633D、娩4258-u5A29
卑。続ける→続けない=連番103稗4103-u7A17
良→・=連番111榔4717-u6994
者。点ありなし=連番125堵3740-u5835、*賭3750-u8CED、*箸4004-7BB8、*屠3743-u5C60、*薯2982-u85AF、*藷2983-u85F7、瀦3585-u7026、*儲4457-u5132
しんにゅう2点→1点=連番128*迂1710-8FC2、*遮2855-u906E、*逗3164-u9017、*迦1864-u8FE6、*辿3509-u8FBF、*遁3859-u9041、*逼4115-903C、*這3971-u9019、*遜3429-u905C、*槌3640-u69CC、*鎚3642-u939A、*鑓4490-u9453、*謎3870-8B0E、樋4085-u6A0B、*腿3460-u817F、*蓬4309-u84EC
豕。点あり→なし=連番129啄3479-u5544、琢3486-u7422、塚3645-u585A
横棒あり→なし=連番131徽2111-u5FBD
ノ米→米=連番135襖1808-u8956
少。点無し→あり=連番136頻4149-u983B、捗3629-u6357、瀕4146-u7015
横棒あり、つらぬく→なし、つらぬかない=連番142僅2247-u50C
横棒あり、なし=連番143灘3871-u7058
円→月=連番146*鯖2710-u9BD6、錆2712-u9306
h一人→ヒ=連番150喝1969-u559D、*葛1975-u845B
月→日=連番152澗2034-u6F97
上→ヒ=連番152-2稽2346-u7A3D
・→・=連番153卿2210-u537F
飮の偏→飲の偏=連番155餅4463-u9905、*飴1627-u98F4、餌1734-990C、*喰2274-u55B0、*欝1721-u6B1D、*櫛2291-u6ADB
示→ネ=連番161祇2132-u7947、*祁2323-u7941、榊2671-u698A
げき→車=連番165繋2350-u7E4B
旁の上。彑→ヨ=連番167剥3977-u5265
最終画、抜ける→点=連番170靭3157-u976D
旁の一部→草冠=連番181荊2353-u834A
2)デザイン差と思えるが、差異が別の包摂規準の例示漢字とされているもの
旁の部分の上下が付いている→離れている
概1921-u6982、冴2667-u51B4、捌2711-u634C。
3)デザイン差と思われ、あてはまる包摂規準が考えられるもの
偏の足。右へ鋭角にはねる→乙包摂規準a)のはねるかとめるか、に分類されるか。
頓3860-u9813
4)デザイン差と思われ、あてはまる包摂規準が考えられないもの
縦棒→横棒創3347-u5275
起筆、縦棒→点註3580-u8A3B
「社会」によると、常用漢字は以下など26字である。( )内は異体字。
拐=カイ/かた・る、かどわか・す。てへん。9画。常用漢字。
JIS:327D、シフトJIS:89FB、区点:01893、Unicode:62D0
喝=カツ、カチ/−。くちへん。11画。常用漢字。
JIS:3365、シフトJIS:8A85、区点:01969、Unicode:559D
靴=カ/くつ。かくのかわ。13画。常用漢字。
JIS:3724、シフトJIS:8C43、区点:02304、Unicode:9774
嫌=ケン/ゲン。きら・う、いや。おんなへん。13画。常用漢字。
JIS:3779、シフトJIS:8C99、区点:02389、Unicode:5ACC
溝=コウ/みぞ。さんずい。13画。常用漢字。
JIS:3942、シフトJIS:8D61、区点:02534、Unicode:6E9D
遮=シャ/さえぎ・る。しんにゅう・しんにょう。14画。常用漢字。
JIS:3C57、シフトJIS:8ED5、区点:02855、Unicode:906E
逝=セイ/ゆ・く。しんにゅう・しんにょう。10画。常用漢字。
JIS:4042、シフトJIS:90C0、区点:03234、Unicode:901D
栓=セン/−。きへん。10画。常用漢字。
JIS:4072、シフトJIS:90F0、区点:03282、Unicode:6813
濯=タク/あら・う、すす・ぐ。さんずい。17画。常用漢字。
JIS:4275、シフトJIS:91F3、区点:03485、Unicode:6FEF
棚=ホウ/たな。きへん。12画。常用漢字。
JIS:432A、シフトJIS:9249、区点:03510、Unicode:68DA
塚(冢)=チョウ/つか。つちへん。12画。常用漢字。
JIS:444D、シフトJIS:92CB、区点:03645、Unicode:585A
扉=ヒ/とびら。とびらのと・とだれ。12画。常用漢字。
JIS:4862、シフトJIS:94ED、区点:04066、Unicode:6249
頻=ヒン/しき・りに。おおがい。17画。常用漢字。
JIS:4951、シフトJIS:9570、区点:04149、Unicode:983B
泡=ホウ/あわ。さんずい。8画。常用漢字。
JIS:4B22、シフトJIS:9641、区点:04302、Unicode:6CE1
癒(瘉)=ユ/い・える、い・やす。やまいだれ。14画。常用漢字。
JIS:6168、シフトJIS:E188、区点:06572、Unicode:7609
暴挙?の背景