荒野のサイクリスト写真集

 第二次チベット旅行編 Part.3 

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西チベットカイラスルート プラン〜マユムラ峠〜サガ〜カトンマンズ

Western TIBET Plateau, Puran - MayumuLa - Saga - Katmandu / 1995 December


98507045 テントでの朝
朝はとにかく寒い。いつも暗いうちから起き出して氷を溶かしミルクティーを沸かす。朝食はチベット人の主食である麦の粉ツアンパだ。一番憂うつな瞬間は靴を履く時である。零下三十度で凍った靴の中に三重の靴下を履いた足をむりやり詰め込む。ほどなく足先は凍りはじめる。すぐに準備を完了し走りはじめないと、そのまま本当に凍ってしまうだろう。背後にネパールとの国境のヒマーラヤの山々が連なっている。


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98507050 転生への祈り
ネパールとチベットの国境の町プラン(タクラコット)は、夏の間はヒマーラヤを越えてやって来る行商人たちでにぎわうという。しかし雪で峠が閉ざされる今は静かで落ち着いた街となる。街の北に広がる丘の上にはかつての大僧院の遺跡があった。今はもう瓦礫と化したその僧院を鎮魂するかのように塚があり、それは真空の蒼空に突き刺さるがごとく天空へと延びていた。


98507051 高原のヤク
チベットをこの動物なくしては語ることはできない。単なる人間の思いのままの家畜でなく、かっこたる自己の意思のみによって支配され、気に入らなければちっとも動いてくれないという誇り高き動物なのである。目の前にいるヤクの群れは、ただならぬオーラを持っているかのような動物であり、単なる牛を越えたなにものかであるように思われた。

 


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98507056 カイラス南ルート
カイラス南ルートを通って東へ向かう。今回の最難所となったマユムラ峠付近は、丸二日間、車にもチベット人遊牧民にすらも出あわなかった極めつけの無人の荒野であった。しかも峠では積雪が多く、トラック通過により圧雪路になった轍をかろうじて通過するといった状態だ。そういった極寒の朝に限って出発直後にパンクする。零下三十度近い中での修理は涙も凍ってしまうくらい泣けてくる。


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98507062 残照のサイクリスト
チベットでの夕暮れは、すさまじいほどの光のページェントをかもしだす。紺碧だった空は、夕陽に真紅に焼け落ちたあと、しだいに紫色へ、うす青色を経て、灰色になり、そして真空の黒へとその彩色を変化させてゆく。チベットではそんな荘厳なドラマが毎日繰り返される。その瞬間は一日でもっとも美しい一刻であるが、同時に気温が激減する苛酷な瞬間でもある。極限の寒さの中で音すらも凍り付いているかのようだ。静かすぎてムネが締め付けられる思い、心臓がはちきれそうだ。その晩テントの中では零下三十五度を下まわった。


98507063 空の彼方へ・・・・
吹きすさぶ風が地を這ってゆく荒野。空はどこまでも広く、大地は限りなく続き、遥か彼方に氷のヒマーラヤがあった。この深い空の蒼さの下では、ぼくは無力だった。懸命にペダルをこぎ進んでも、永遠に変哲もなくその空は何処までも広がっていた。

 


98507064 高原をめぐる冒険
太陽がゆっくりと西へともたれかかってゆき、しだいに夕闇の気配が近づいてくる。優しいオレンジ色にすべてが包まれ、小さな石すらも長い影をひいている。やがて寒く、長い夜がやってくるだろう。気温が急激に下がってきて、手足の指先が凍えてしびれ始める。風も増してきてぼくの体から体温を奪う。そろそろテントを張らねばなるまい。


98507065 ヒマーラヤをゆく道
このヒマーラヤの荒野をゆく道には行き止まりがないという。チベット仏教の教えのごとく輪廻転生を繰り返している。また、いくら道が厳しかろうと、それ相応の感動がある。これを仏教では因果応報と言うのだそうだ。チベットではすべてが仏教に支配されている。
この先の峠を越えれば十日ぶりにちょっとした町にたどり着く。いくらでも食糧が手に入り、しかもビールだって飲めるだろう。


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98507075 自転車旅行への誘い
大地と天空はあらゆる彩色をもってして旅人を魅了する。そんな自分だけの景色を求めてぼくは自転車で旅をする。いったいぼくはこの旅の途中、いくど感動に自分の心を奪われたことだろう。いくど困難の中で悶え苦しんだことだろう。どんなにその土地の人々と出会ったことだろう。


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98507077 シシャパンマ峰
ついに一年前の第一次チベット旅行の時走ったルートに合流する。前回は曇っていてガスの中に見る事ができなかったシシャパンマ峰(海抜8012メートル)も、抜けるような空の下でその氷の芸術を輝かせていた。こんな素晴らしい景色が広がっているとは一年前は思いもよらなかった。ここより一気にインド亜大陸へと駆け下る。さらばチベット、いつかまた。


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98507080 氷の回廊
平均海抜四千メートル以上のチベット高原から、海抜千メートル以下のインド亜大陸へと、ヒマーラヤを越えて、ニャラム谷のスーパーダウンヒルを一気に駆け下る。生命の存在を拒否するが如く荒涼としたチベットの大地より、高度を下げるにつれて緑の木々が現れはじめた。久しぶりに森の匂いをかいだ時、何だか宇宙から地球に帰ってきたような気がした。

 

 

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Hiro Andow

Last Up Date : 2002/03/23.