東チベット自転車旅行 文成公主の道を行く

From Jukund to Lhasa: A record of Eastern Tibet Plateau Bike Expedition, 2001 Autumn

フォトエッセイ集

 
故人 行役して辺州に向かう
匹馬 今朝しばらくも留まらず
長路 関山いずれの日にか尽きん
満堂の絲竹 君が為に愁う ・・・・  張謂

七世紀、唐の時代にチベット王家に嫁ぐことになったプリンセス文成公主        

当時チベットはトハンと呼ばれ、遥か彼方の天涯の世界              

  長安からラサへ向かうその道は、長く険しく、そして過酷な自然の中にあった

          今回のぼくの自転車の旅もまた、その道をたどって同じくラサを目指す旅である
 

青海省ジュクンド 出発地点

2001年10月初め

 

ジュクンドの街角で、下校中の子供達に出会う。ヤクの子牛と一緒におどけて見せた。

 


街角には物乞いや乞食僧がたくさんいる。この陽気な夫婦もこうして物乞いしながら旅を続けている。

 


 

 

中国青海省は、広大なチベット高原の北東部にあり、日本の2倍の面積をもつ。チベット人達の住む世界であり、省都西寧(シーニン)は昔よりチベットへの玄関口、ラサへ向かう旅の出発地点として知られる。その青海省の南、チベットのカム地方にあるジュクンド(玉樹)は寺院を中心に広がる古くからの交易の街であり、このあたりの経済と信仰の中心地であった。そして今も通の旅人の間では知られた街だ。

 


ジュクンドのお寺を訪れると、日本人というだけで歓迎してもらえ、バター茶やツァンパをご馳走になった。

 


いよいよ東チベットの未知なるルートへ向かう。本当に道があるのかも定かではないルートを…

途中の村に大きな僧院があった

 


中国製の自転車は旅を始めて3日目に変速機が根本から折れてしまった。しかたがないので前後ギアのチェーンを直結して無変速で旅を続けた。

 


幾つかの峠を越えてメコン川本流の源流に出会う。メコンといえば東南アジアの大河。チベットより雲南を流れて、ラオス、タイを通過しやがてベトナムで海へと注ぎ込む

 


名もない道の途上に破壊されて荒廃したままの僧院があった。朝日が小高い丘の上にあるその僧院だけを照らし始めた

 

 

旅で出会った人々

 

遊牧のテントにお茶を呼ばれた。「夏に来ればもっと草原はきれいだよ」と爺さんはいった

 


子供とはいえ遊牧民の風格を感じる

 


屈託のない笑顔に、きつい自転車の旅の疲れが癒される思いだ

 

 


自転車に乗って他所の国から旅人が来るなんて珍しいことに違いない

 


子供達は大人以上に好奇心旺盛だ。どこの国でも同じことかもしれない。だけどチベットの子供達はもっともっと陽気だ。

 


子供達はなかなかぼくを離してくれない

 


カメラを向けるとちょっとはにかんだ

 


ちょうど収穫した麦を脱穀する時期だった。絵になる光景だった。だけど写真を撮らせてくださいと断ってもみんな逃げてしまう。そんな中でこの少女はぼくのファインダーに向けて微笑んでくれた。

 

 

高原に生きる動物たち

巨大なハゲワシがジュクンドの僧院で羽根を休めていた。チベットでは鳥葬が行なわれる。天へと帰る葬儀方法だ。このハゲワシは人と天との掛け橋をしてくれる神聖な存在だ。

 


チベットといえば放牧の世界。そしてその主人公は高原のヤク。ぼくのカメラの前で二頭のヤクがケンカをはじめた。

 

チベット自治区へ

 


山々を越えて ふと前方に巨大な僧院が現れた。それはすごい神秘的な存在だった。ぼくはこんな大きな寺がるなんて知らなかったし、辺りの静かな谷合もここが特別なところである雰囲気を漂わせていた。

 


道すがらには小さなお寺が幾つもある。寺の前で自転車を止めると、僧侶が近づいてきた。

 


10月の草原はすでに枯れ果てていた。夕闇が近づいてくると、夕陽に草原は黄金色に輝いた。

 


自転車で旅を続けていると、一日の時の流れを実感できる。黄昏に自分の影が長くなってゆくとき、その日一日の存在を感じる。

 

 


時として青空を見上げながら草原で昼寝する。至極の一時だ

 


川藏公路北路はまだまだヤクや馬が荷運びの交通の主力。もちろんトラックも走っているが、荷台はいつもヒッチハイクしてる人たちで鈴なりだ

 


東チベットの地形は険しい。毎日のようにきつい峠が待ち構える。突き上げるような峠にジグザグ道が続く

 


10月のチベットはもはや冬である。峠の頂きはすでに雪の中にある

 


バックパックを担いで歩いてラサを目指す旅人に出会った。彼は上海人で徒歩旅行の本を出版した事があるという。この日はいっしょに近くの道班に泊めてもらって、酔っ払いながら旅を語り合った

 


道すがら道路修理の人達の住む道班に幾度かお世話になった。いつもみんな親切に旅人を受け入れてくれる。

 


チベット人達の巡礼の方法に五体倒置というのがある。前進を投げ打ちながら自分の体の大きさだけしか進んでいけないので、ラサまでの巡礼にも何ヶ月もかかる大変な荒行だ。中にはもう何年も五体倒置で旅を続けているという尼僧にも出会った。初めてその姿を見たとき、なぜだか涙が出てきた。

 


道脇にチベット仏教の経文が掘り込まれた石塚をよく見かける。

 


仏舎利塔があった。自転車を止めて休憩していると珍しがっておばさんが近づいてきた。

 


まるでどこか次元の違う世界のようだ

 

 

藏北地区

 

大平原の標高は4000メートルを越えた。空が前よりまして宇宙に近くなった

 


山々に朝日が照り始めた

 


荒野の中を一人走りつづける

 


どこまでも続く道の向こうにヒマーラヤの山々が広がっていた

 


ナムツォと呼ばれる聖なる湖があった。海抜は4700メートルで琵琶湖の3倍の大きさがある。富士山頂上よりさらに千mも高いところにあるのだ。

 


湖の向こうにヒマラヤの七千b方が連なる。この湖を訪れるにはこの山脈の一番低いところを越えてこなければならないが、それでもその峠は軽く五千bを越える。苦労してきただけにその湖の神秘性はさらに増す。

 


初冬の高原の大地は凍てついていた。早朝は寒さに手袋をしていても指がちぎれそうに痛む。凍っていた川も日が昇るにつれて溶け出す。

 


ニンチェンタングラ峰7162メートル。南から見上げる頂上。いつか登ってみたいものだ。

 


チベットの峠にはタルチョと呼ばれる祈祷の旗が風になびいている。旅人が峠を通過するたびにタルチョを取り付けてゆく。その旗の数だけ旅人の思いがはためいている。

 


道脇で伯母さんと少年が自家製のチーズを売っていた。ヤクのミルクから作りたてのチーズはすごく美味しい。ついでにバター茶もご馳走してくれた。2-3日もすると固くなってしまうし、ラサの街では見かけなかったので、新鮮なチーズは至上のごちそうだ。

 

 

 

禁断の聖都 ラサ

 

6年ぶりにラサに帰ってきた。街は少し変わっていたが、ポタラ宮殿だけは何百年も前からその威厳を保ちつづけている

 

 


ジョカン寺の屋上からポタラ宮を望む。

 


ポタラ宮殿。チベットの抜けるような青空へ向かってそそりたっている。

 


 

 

 


 

 


七世紀に文成公主によって初めてチベットに持ち込まれた釈迦牟尼像。唐の時代、当時トハンと呼ばれたチベットに文成公主がとついできた。その時持ち込まれた仏像がチベット仏教の始まりであったという。ラサのジョカン寺にはその仏が祭られている。

 

ラサから成都へのフライト

 

旅を終え、ラサから四川省の成都まで飛行機で飛んだ。チベット文明の母なる流れであるヤルツァンポ川が、ヒマーラヤの聖水に光彩を放ちながら、眼下を流れていった。

 


東チベットを代表する頂き、ナムチェバルワ峰。グレートヒマーラヤ山脈の東の端を彩る。飛行機からの空撮。

 

 


参考資料

旅の計画書、報告書

日本アドベンチャーサイクリストクラブ

1. 計画趣旨

ユーラシア大陸の真中に位置するチベット高原はヒマラヤをはじめとする四方を急峻な山々に囲まれています。その東側は中国の四川省や雲南省と接しており、横断山脈や大雪山山脈といった山々と渓谷が続く複雑な地形を形作っています。

以前安東はチベットの首都ラサから雲南省まで自転車で走破したり、黄河の源流域を訪れたりと、すでに幾度か東チベットに入り込んでいますが、まだ外部には知られていない東チベットのルートを1ヶ月かけて自転車で走ろうと考えています。標高四千b以上あるチベット高原は、ぼくが得意とする地域でもあります。流域にすむチベット遊牧民たちとの出会いを大切にしながら走ってきます。

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2.  目的

・東チベット高原における新しい自転車踏査ルートの開拓

・チベット遊牧民文化との交流

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3.  期間及び場所

・期間 2001年10月2日〜11月1日迄の1ヶ月

・場所 中華人民共和国 青海省、四川省、チベット自治区にまたがる東チベットの村々

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4.  走破ルート

・青海省西寧から玉樹(ジュクンド)までバス

・ジュクンドより南下して川蔵北路上のリウオチェ

・川蔵北路を西進してゴルムドラサ公路のナチュにでる

・ナチュよりラサへ南進、途中ナムツォ湖に寄り道する


最終更新日 : 2002/03/23